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学校の屋上には誰もいない。
そこで空を見るのが日課だった。
寝転んで背中に冷たいコンクリートの温度を感じながら独り、空を見るのが好きだった。

「そこで何をしているのですか?」
「……見ればわかるでしょ。寝てるの。」
「もう午後の授業は始まっていますよ。」
「それが?」
「サボりですか。」
「そうですよ。」

人がせっかく良くまどろんでいた所に来た邪魔者。
どっか行ってくれないか。
そんな雰囲気を出すように私はゴロリと背を向けた。

「つれないですね。話し相手位にはなれると思いますが。」

やけに馴れ馴れしい邪魔者は私の隣に座った。しかもそいつは日差しを遮って私に陰を指した。ウザい。
それにしてもどこかで見た顔だ。

「何の為に……。」
「兄が世話になっていますので。」

ああ、思い出した。

「あんた、宗像君の弟さんか。」
「やっと思い出しましたか。一度会ったこともありますよ。」

そうだ、思い出した。この学校で私に唯一話しかけてくる人がコイツの兄だ。

「じゃあお兄さんに言っといて。もう私に構うなって。」
「何故ですか?」

(……ムカつく。)

絶対に知っている癖に、言わせるのか。

「あんたも噂とかで聞いたことあるでしょ?バケモノのコト。」
「さあ、生憎ですが噂などには疎いものでして。」

(すいません誰かこいつぶん殴って。)

よくもまあそんな口八丁になれるものだと思い立ち上がる。

「何処へ?」
「どっか。遠くのとこ。」

今度こそ、誰も来ないところへ。

「行けるのですか?貴女に。」

足が止まった。
こいつは何を知っているのか。

「何も知りませんよ。ただ、何もしないのにサボらずに学校に来るだけは来ている、という点が少し気になっただけです。」
「……。」
「何か、学校に来なければならない理由でもあるのかと思いまして。」

焦り損だったか。
顔には出さずに安堵してまた宗像から離れた床に寝転んだ。

「行かないんですか?」
「あーなんかもういいや。めんどくさくなっちゃった。」
「そうですか。」

目の前の空は青くて広い。
手を伸ばしても全然掴めなくて、それなのにこんなちっぽけな自分など簡単に包み込んでしまえるのだ。

「……私さ、空になりたいんだよね。」

独り言の様にぽつりと言った。電波と思われても構わない。むしろ私からコイツが離れてくれるなら大歓迎だとも思った。

「というと?」

だからその返事には驚いた。でも笑い飛ばされなかったことが少しだけ、嬉しくてついついその先を話してしまった。

「空ってさ、何でも見てるし何処にでも在るし、いつまでも在るじゃん。神様みたいじゃない?全知全能って奴かな。」
「なるほど。しかし地下や屋内なら空も届きませんよ?」
「それは人間が造った神への逃亡手段だ。いつか壊れる。永遠である時点で、空は神だ。」
「それで、あなたはなりたいのですか?その神とやらに。」
「ああ。なりたいねぇ。」
(そうなれば、私の望みは全て叶うじゃないか)

理由までは言わなかった。言う義理も無かったが。

「神となって、どうするつもりですか?」

神になりたい。そう言った瞬間に人は馬鹿にするかおこがましいと罵るかのどちらかに別れた。それ以外で強いて言えば、どうやってなるのかと聞いてきた奴は過去にいた。

「教えない」

それ以上踏み込むな。
そんな意を込めて笑った。
誰であろうと、この先は見せないし見させない。
空が神なのは私だけで良い。私だけの神だ。
私の為だけの神なのだ。