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「そうそう、あなたをあそこへ連れて行った理由はもう一つあるのよ」
「え?」
「あの店に私一人で行くと色々煩い知人……いえ友人がいるのよ」
「友人……?」
「ええ。……意外とあなたと気が合うかもしれないわね」



その副長の友人本人に出会ったのはすぐ翌日のことだった。



牢屋前の廊下を目的の部屋まで歩く(浮く)。

(6号房、6号房……)

周防尊の隣の牢。そこに彼女はいた。昨日の競技場への出動での収穫らしい。私はそこに食事を持って行く役目を貰っていた。

「おお、ついに取り調べかい?いやあドラマとか見て憧れてたんだよねえ!まさかされる側とは思わなかったけど!」
「いえ、食事です」
「食事だったかあ!全く、尊はここの食事を聞いても不味いしか言わないからなあ!地味に楽しみにしていたよ!まあ私の知ってる最高に上手い料理に敵うとは全く思っていないが!」

何なんだこの人は
失礼だがそう思った。煩いことこの上ない。

「貴女が、火影姫?」
「その言い方は止めて欲しいなあ。まるで私が吠舞羅の一員みたいじゃあないか。せめて元の影姫にしておくれ。そっちならまだ吠舞羅要素が少ない」
「違うの?」
「だーから何で至る所でそうなっちゃってんのかなあ!?私の王は一言様ただ一人!!」
「じゃあ何で吠舞羅にいたの?」
「それ聞くかい!?聞いてくれるかい!?よし話そう!!あれは6年前の話だ!!私は」
「おい」

彼女のマシンガントークを隣の周防尊の低い声が止めた。

「やあ尊!やっと空気ポジから脱却したね!全く、いくら私が話しかけても反応しないんだからもう!聞いてよ君!この人ね、私が今能力封じられて声上げるくらいしかできないのに完全に無視してくれちゃってるのよ!」
「うるせえ」
「はーい」

(静かになった!)

色々と付いていけない彼女。
とりあえず彼女はなんか色々と凄かった。






「んー……まあまあ、だね」
「そうですか」

運んだ食事を食べている彼女。吠舞羅の人達は何故こんなに舌が肥えているのか。そして何故私は食べ終わるのを律儀に待っているのか。当番の人に任せれば良いのに。この人が待っててと言うから。

「……あなたは、どうして此処に?」
「お宅の王様に足をやられちゃってね。痛みは特に無いから大丈夫なんだが、仲間の足手まといはゴメンさ。そゆこと。ごちそうさまでした」
「室長が……」

空になった皿を力で回収する。

「おお、サイコキネシスか。で、君の名は?私のはもう知っているんだろう?」

彼女は私のすぐ目の前に立っていた。見上げた顔は拘束具のついた腕も気にせずに笑っている。

「……御影刹那」
「うん、綺麗な名前だ。綺麗な女の子は名前も綺麗だ。その長い黒髪も実に美しい。触れられないのが実に残念だ」
「えと……あの……」

過去一度も言われたことの無い台詞に赤面した。

「……お前まだナンパなんてやってたのか」
「思ったことを口にしただけだ。それの何が悪い?」
「あの……えと……あ、ありがとう、ございます……?」

よくわからない状況になってきた。牢屋越しに会話をする囚人達にそれを咎めない私。

「刹那ちゃんは本当にかわいいなあ!どうだい?今度一緒にランチでも。そうだ世理ちゃんも誘おう。アンナちゃんも連れてきて女子会でも開かないか?皆で世理ちゃんのあんこに魘されようか!」
「あんこに塗れるところまで想像できるならどうして中止にならないんですか!」

やっと彼女に突っ込めた。
周防尊は彼女に酷く冷たい目を向けている。ドン引きしてる。
私は謎の達成感を得た。

「……やっと少し元気になったね」

彼女は膝を折って私と目を合わせる。

「最初から随分と思い詰めた顔をしていたよ。笑った顔が女の子は一番かわいい」
「あ……」
「君が何に追い詰められていたのかはわからないし知らない。だけど一人ではないよ。その服が証拠だ。クランの絆は強いぞ?こいつらのが証拠だ。まあそれでも駄目ならいつでも私のところに来い。私は常に家族と女の子の味方だ」
「……牢屋にいる人が、何言ってるんですか……!」
「それはそうだ。こりゃ一本取られちゃったかな」

声をあげて笑うその姿はとても囚人には見えなくて、とても自由に見えた。
それがどうしても羨ましくて、悔しくて。彼女も同じストレインだったはずなのに。

「っ失礼します!」

滲む視界をごまかして出ていこうと車椅子を浮かせた。

「ああそれと、私の持論にだが……」

まだ何かあるのか。足(車椅子)を止めてしまう自分が恨めしい。

「泣き顔があるから笑顔が映えるというものがある。泣くことも、必要なことだよ」
「っ煩い!」

逃げる様に牢屋前から出て行った。



曲がり角を曲がったら誰かにぶつかった。
物凄い勢いでぶつかったから吹っ飛ばしてしまったかもしれない。

「ごめんなさい!大丈夫です、か……」
「一体どうしたんですか。そんなに急いで」
「室長……」

ああ最悪だ。
今一番会いたくない人に、会ってしまった。