赤の王は今セプター4にいる。ヴァイスマン偏差が限界値ギリギリで極めて危険だから。
私はそれくらいのことしか知らない。
王のことなんて余り知りたくない。
王はどこか遠くのところでいつも孤独だから。
一緒にはなれなかったから。
「……副長」
「何?刹那」
バーを出て私を押す副長に俯いたまま声をかけた。
「どうして副長は今日私を連れてきたんですか?」
見上げた副長は驚いた顔をしていた。自分は今、どんな顔をしているのかなんてわからなかった。
「私はね、刹那。あなたに色々なクランを見せたかったの。ほらあなた、うちのや黄金のしか知らないでしょう?全く毛色の違うクランや王もいるってことだけは、知っておいて欲しかったの」
「……あの人達の王が今、うちにいる理由は……」
「そうね。でも、あの赤のクランには殆ど戦う力の無い最弱の幹部もいたのよ」
「……?」
「ただ王の傍にいる。そんなクランズマンの在り方も、有ると思うの」
「……」
私は強く在りたかった。そう在らなければならなかった。
強くなければ、私は駒にすらなれないから。
でも、その「最弱の幹部」に少しだけ憧れた。
「……私は室長の傍にいたのではありません。彼が、私の傍にいてくれただけです」
「なら、そのまま離れなければ良いのよ」
「え……」
「あなたは私達の中で一番室長に近いところにいる。少し悔しいけど、そこにいられたのはあなただったからよ。食らいついていきなさいよ。あなたは中学生であの迦具都事件を生き延びた女でしょ?」
「……ありがとうございます」
王も人間だった。
遥か昔の光景が次々に流れ出してくる。
「昔の私は、ただ普通に生きたかったんです」
(でも今は)
彼の傍で幸せになりたい。
「……そう」
何かが私の頬を濡らした。
太陽は沈んでいく。