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安心して後悔
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歩いていくと、ゆらの悲鳴が微かに聞こえた。
まだ生きていた。その事実に安堵した。
どうやら間に合ったらしい。
一番街の旧鼠組のアジト。
その頭領の旧鼠が座る豪勢な椅子の後ろにあるカゴ。まるでハムスターを飼う時に使う様なそれの中に人質の少女二人はいた。

「何者だぁ!?テメー」
「本家の奴らだな……」
「三代目はどーした!?」

(うるさい……)

旧鼠達の喚く声にかすがは眉を寄せた。耳障りな騒音に全て滅してしまいたくなった。かわいい妹を傷つけられていて彼女も怒っていたのだ。

「ならば約束通り殺すまでよ!!」

旧鼠がリクオとのやり取りで交渉決裂したことにより人質二人を殺そうとカゴに手をかける。

「させると思ってんのか!?」

風宮が細い竜巻を飛ばしてカゴを捻り切る。駄目押しに青田坊がそれを引きちぎって破壊した。
ゆら達の側に風宮と首無が行く。風宮が顔を覗き込むと、瞳が揺らいでいた。

「おい大丈夫かゆら。泣いてんのか」
「泣いてへん!それよりあんた、姉ちゃんか?風宮と人式一体したんか!?」

『ゆらなら気づいてくれると信じてたよ!!』

流石我が妹だとかすがは拍手喝采したい気分になった。こんな事態になった時点でお説教は免れないが。

「ヘエ、お前やるな。わかったのか。ま、今は後だ。オイそこの首無!こいつらを頼んだ!」
「え!?まあいいケド」

ゆらと少女を首無に託して、風宮は旧鼠達に向き合う。

「やっぱり関わってよかったぜ。食料はちゃぁんと……、自分で取らなきゃなあ!!」

『思いっ切り殺りな風宮!遠慮なんて要らないよ!』

かすがからの畏で風宮の力を一気に強化する。

「当ったり前だ!ゆらは大事な暇潰し相手なんだからな!傷つけやがって、覚悟しな鼠ども!」

柄も鞘も刀身も紅紫の妖刀「鬼薊」を構えて挑発する。飛び掛かって来た鼠達をブンッと一振りで薙ぎ払い畏を奪う。

「最っっっ高……!!」

一薙ぎで相当の畏を食った風宮は恍惚として、返り血がまたその不気味さを強めた。

『悦に浸ってる場合か!また来るよ!』
「わかってるよ!!」

笑顔でまた一匹二匹と風と刃で切り捨てて行った時、その背後で巨大な火柱が上がった。

「何!?」

奴良リクオの技だろう。旧鼠が轟轟と音を立てて燃え上がっている。

「え、ちょ、オイ待てよ……!!」

『風宮、あの火柱消せるか!?』

かすがが慌てて風宮に問う。しかし遅く旧鼠の体は塵になった。

「駄目だ。あの鼠、死んじまった。」

『そう……』

かすがにはまだ旧鼠に用があった。牛鬼の件だ。探っても出て来ないのなら本人達に直接聞くしか無いと思っていたのだ。

『仕方ない。旧鼠は生け捕りにしてくれって頼まなかった私のミスね。目論見が甘かったわ』
「いいのか」
『まだ打つ手が無いわけじゃないもの。それに、この祝勝ムードを壊す訳にはいかないでしょ。じゃあ帰るよ。草鬼出して』
「ヘイヘイ」

風宮はゆらへの伝言用として草鬼一体を出してこの場所を去った。
風宮に気付いていた首無は、その姿をじっと見ていた。