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遡ること半日程前。カランカランとベルを鳴らして周防が吠舞羅に帰ってきた。

「あ、キングお帰りー」
「早いな尊。で、どうやった?例の十束が言うとったストレインは」
「……いなかった」

それだけ言うと周防はのそのそと二階へ上がって行ってしまった。

「……逃げられたってことかな?」
「まあ、そいつの判断としては間違ってへんな」

王を相手に勝てるストレインなどいない。クランズマンも同様だ。逃げるに徹するが最善だと、残った二人は話していた。



*



都会の裏路地を全力で駆け抜ける。夏の陽射しはビルに遮られ、熱だけが篭り汗の分泌が促進された。その合間を照は無色の王の力を使い縦横無尽に移動していた。

(どうしてこうなった!?)

訳もわからぬまま照は空間を捩曲げて血が滴る足でビルの屋上まで跳んだ。



時は十数分前に遡る。
照は宣言通り星竜会の事務所へ行った。しかし見たのは星竜会壊滅の現場だった。

(何だソレ)

照はすっかり気が削がれてしまい帰路に付いたが、その際にチラっとデパートのウインドウが目にはいった。夏物のかわいらしい服やカジュアルな服と自分に縁の無さを感じて自嘲したその瞬間だった。
耳鳴りと共にウインドウが割れ、彼女を鋭い殺気と共に刃が襲った。
咄嗟に躱したが首から血がジワリと滲んだ。危なかった。もう少し遅ければ頭と胴体がおさらばしていた。
此処は危険だと判断して一般人を巻き込まない裏通りに入る。人がいないから攻撃回数は格段に上がったが、狭い分攻撃をしっかり見切ることができた。

(直線的な刃。結構速いけど直前にヒュッ、て風を切る音がする。だから今は何とか避けられてる、けど……!!)

避け続けるうちにわかった特徴もあるが、ストレイン本人が見つけられない。
ビルの森をターザンの様に移動する彼女を敵は確実に仕留めかけていた。

「しまっ……!!」

分析している間のわずかな気の緩みをつかれた。庇ったものの、彼女の足からは血がドクドクと流れ出てしまっている。一気に窮地に追いやられた彼女は更に「手」を高く伸ばしてビルの屋上まで瞬間的に跳んだ。

(ああもう、どうしてこうなった!?)

彼女は勢いをつけすぎて少し高く跳びすぎた。屋上へ着地するまでのほんの数秒の間、耳鳴りのした直後に彼女は刃に囲まれた。そして自分のミスに気がついた。

(やっぱ風使いか……!!)

正体に気づきはしたが、襲って来る刃は止められない。刃の包囲網を無理矢理「手」で突破してなんとか何避けることはできたが、向かいのビルの屋上にたたき付けられた。
受け身を取り損ねて息がつまったが、そのままゴロゴロと転がって勢いでビルの中に入ろうとした。敵が外から照を狙っている風使いという仮定が正しければ、建物の中に入ってしまえば安心だと考えたからだ。その後のことは考えてないが。
しかしそれも読まれていたらしい。入口に届く直前で刃がまた襲って来て建物に入れない。そうなれば、この開けた屋上では蜂の巣にしてくれと言っている様なものだ。

(何処から狙っているんだよ一体!?)

問題はそれだった。
雨の様に降り注ぐ刃を手を大きな傘の様にして防ぎながら考えた。
さっきの様に全方向から囲んで打ち出せるのなら、来た方向からの予測はほぼ無意味。このまま防戦一方ではやられるのは時間の問題だ。なんとか攻撃に移りたかった。
「手」の傘の壁を作って刃から身を守るのも限界がある。なんとかしなければ。

(考えろ、考えろ……!今あるのは何だ)

主も弟分もいない今、頼れる人間は誰もいない。吠舞羅の人には頼りたくないしまず連絡方法が無い。
自分一人でやるしかない。
覚悟を決めて刃の飛んで来る青空を見た。

(……待てよ)

本当に、自分だけか?
頭を過ぎったのはつい先程見た彼ら。
彼らならば、ストレインの居場所の特定なんて容易いはず。
賭けるしかない。
「手」を消し屋上の角まで全力で走る。大通りに面しているビルとビルの間へ。
体力ももう限界に近い。サンクトゥムの中にいない状態で十分までに自分の力が出せるかは不安だったがもうこれしか無い。

(気付け青服!!!)

そう内心で叫びながらそこから飛び降りた。
当然予想以上の刃が照を囲む。照は「手」での防御を捨て地上の一般人達へ薄く広く延ばした。その「手」は照のストレインとしての能力を付属させた物理的な力は一切無いものだ。

(間に合え……!!)

刃が照に届く直前に「手」をまた戻して防御として展開し直す。そして同時に彼女は自身のストレインの力を発動させた。






「ハアッハアッハアッ……ゲホッ」

照はビルの間の路地裏に仰向けに大の字で倒れていた。防御しても刃を全身に浴びた照は既に満身創痍だった。なんとか地面への直撃の衝撃は「手」で緩和したものの全身が痛い。多分肋骨が何本か折れているかひびが入っている気がする。肺が痛み呼吸が酷く苦しい。

(……どうして)

曖昧な意識の中で僅かに働く脳はそれだけを考えていた。恨みを買った覚えは無いはずだ。女性関係だろうか。だが今まで遊んだ子の中にそんなストレインに復讐を依頼するような過激な子はいなかったと思うし、まず女の子を不満にさせた記憶は無い。
ザッと足音がした。視界の隅に黒い足が見えた。きっと犯人だろう。止めを刺しにきたのか。

(あーくそっ、もう少し、生きたかったなあ……)

来たる衝撃に目を閉じた。

「そこで何やってるの」

ドスッと音がし、覚悟していた痛みの代わりに若い男の声が響いた。

「ねえ、生きてる?一応保護しに来たんだけど」

その声に間に合ったのだ、と安堵した。

「君の力の色はさっき見た。無色のクランズマンだよね?」
「……そう、だ」

なんとか搾り出した声で答える。さっきの男とは違う声だった。助けは二人いるらしい。
男達が呻いているストレインにサーベルを構えた。

「これより特異現象管理法特例2条に基づきお前を拘束する」
「セプター4、湊速人」
「同じくセプター4、湊秋人」
「剣をもって剣を制す」
「我らが大義に曇りなし」



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