×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

*は注意


「いい加減泣き止め。」
「無理です……!」

誰もいない教室。ここは私達トランペットパートが毎日練習に使った場所だ。私が床にしゃがみ込んで泣いていたところに音羽先輩が来た。なんで見つかるかな。こんな姿誰にも見られたくなかったというのに。
今日は夏に引退した先輩方の卒業式だった。
泣く人もいればこれからに対して更に気を引き締めようとする人もいる。
私は前者だ。
卒業式では吹奏楽部の演奏とともに先輩達を送る。演奏する度に先輩から教わった日々が蘇ってきた。

「……来年は、奏馬先輩も、音羽先輩も、あそこに座ってるんですよね。」

部活はきつかったし難しかったけど楽しかったのも本当で、優しい先輩も厳しい先輩も大好きで。引退の時も泣いたのに、もうあの人達と一緒に演奏できないと思うとまた涙が溢れた。
たった半年だ。
泣かないと思ってたのに。
先輩達を笑って送りたいと、思っていたのに。
先輩達はこんな駄目な後輩を赤くなった鼻で笑って許してくれた。

「お前と演奏する卒業式も、これで最後か。」
「なんで、更に泣かせるんですか……!?」

そうだ。来年は私が、私達が音羽先輩を見送るんだ。
今日は私にとっても、先輩にとっても、最初で最後の卒業式で。

「私はっ、何も、できませんでした……!コンクールでも、先輩達の足引っ張ってばっかで、何もっ、」
「……。」

どうして何も言ってくれないんですか。いつも正しいけど無茶苦茶なこと言って、神峰君達振り回してる癖に。こんな時ばっかり。

「音羽、先輩。」

ガラガラの鼻声で音羽先輩を呼んだ。

「なんだ。」
「私っ、頑張ります。頑張りたいです。絶対、先輩達と皆で、全国、行きたいです。」

音羽先輩はもうすぐ全国へ行く。
それでも、足りないんだ。
私達の、この部の最終目標はずっと、夏の全国コンクールでの優勝だったから。

「まずは野球部の応援だろう。また神峰のバカが無茶やってるらしいからな。」
「ここでそれ言いますかぁ!?」

神峰君の提案はソレは確かに無茶苦茶だったけど、暴君よりはまだ大丈夫だと思う。

「お前は誰かの為の演奏の方が良い。応援は向いている。」

半年しか世話になってない先輩の為にそこまで泣き腫らせるんだからな。
そう続けた音羽先輩はくしゃくしゃと乱暴に私の頭を撫でた。

「音羽先輩の時は、絶対、泣いてなんかやらないんですからね!」

その手を振り払い私は音羽先輩に噛み付く。

「それでいい。汚い泣き顔で送られるよりはな。」
「どうしてそんな言い方しかできないんですか!」

涙は止まっていた。


prev next
back