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*は注意


役に立ちたかった。最初はただ、それだけだった。
ずっと役立たずと呼ばれ続けてきた私を、拾ってくれたあの人へ、恩返しがしたかった。
いつしかその想いは恋心となり私の中に芽生え育っていた。



「辛い。」

毎月届く激辛せんべい。
これは食べるとあまりの辛さで涙が出てくることで有名なのだ。だから隊士達は余り食べたがらない。しかし食べなければ貯まる一方。だから私は食べるのだ。もう届くことはない最後の激辛せんべいを。



私は真選組の女中をしている。
それまで会社をクビになり続けて、宛てもなくウロウロしてたところに舞い込んだ人材募集のチラシに私は飛びついた。
幸い家事だけは得意だった為、何とか仕事にはありつけた。そしていつの間にか、その職場のナンバー2に私は恋をしていた。
きっかけはあまり覚えていない。いやむしろ無いかもしれない。
本当に自然に、私の目は彼を追っていたのだ。



数日前、沖田隊長の姉君が屯所を訪れた。
女中の間では彼女と副長の関係についてで盛り上がっていた。私も加わりはしなかったが何かあるとは思った。副長は彼女が屯所にいる僅かな間だけでもわかる位全力で彼女を避けていたから。副長の女性関係でのそんな反応は見たこともなかった。
恨めしい程冴え渡る女の勘。それは恋の終わりを感じさせるには充分だった。
一瞬過ぎて、嫉妬すらもできなかった。



時間は流れて今日の明け方、彼女は弟に看取られて、安らかに息を引き取ったそうだ。
彼は死に目にすら立ち会わなかったらしい。彼らしいとも言えたが、正直悲しかった。
これできっと彼は一生誰かを愛さない。喩えあったとしても、それは私ではない。私は彼女には敵わない。
恐怖したから。
返り血を浴びて帰って来た彼等を一度だけ。
きっと彼女なら何も言わずに受け入れるのだろう。震える彼の側にいることもできたのではないだろうか。
彼のいる闇の中へ躊躇無く踏み込める、その中で輝ける人間は、彼女だけだったというのに。

本当に、世の中というのは理不尽だ。
私なんかよりもずっと、彼女の方が生きたかっただろうに。
誰もいない屯所の台所で一人、包丁と向き合っていた。
こんな死に切れない中途半端な人間は結局、光にはなれないということなのだろう。
頬に何か熱いものがつたった。
激辛せんべいは、もう無い。





「僕の知らない世界で」様提出作品
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