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*は注意


ノックもせずに部屋に入れば、ベッドの上に丸い塊が一つ。短く深くため息をついてそれに跨がり奴の耳栓を抜く。そして代わりにイヤホンを差し込み、鼓膜が破れない程度の大音量にセットする。ウォークマン片手にベッドから降り、もう片方の手を祈る様に前に出し目を閉じた。

(お願いします!)

再生ボタンを押して流れてくるは彼の部のパーカッションの録音。
ガタッと音を立て彼は起き上がった。やはりちゃんと聴かせれば効果は在るようだ。

「おはようございます。悟偉先輩。」
「……ああ。」



*



「あの起こし方は止めろっていつも言ってるだろう。」

登校中。前を歩く私の後ろで悟偉はため息をついた。

「だって効くんだもの。悟偉、私の声じゃ起きないでしょ?」
「……。」
「?何か言った?」
「別に。」

ボソッと何か言った様に感じたが、私では聞き取れなかった。気になる。

「ねえ、なんて言ったの?」
「言ってない。」
「絶対言った!」
「言ってない。」

強情。こうなったら絶対に聞き出せないと知っている。諦めよう。私は鞄から一枚のチラシを取り出した。

「ねえ悟偉、今度うちのバンドが体育館でライブするの!もしよかったらなんだけど、」
「行く。」
「……即答っすか。」
「この日はオフだ。行ける。」
「そ、そっかぁ……。じゃあさ、この前言ってた子達も連れて来てよ!私と同い年なんでしょ?」
「嫌だ。」
「また即答!?なんで!?吹ジャの子って私同じ楽器だから話聞きたい!」
「駄目だ。」
「だからなんで!?」
「なんでも駄目だ。」
「……もう。」

駄目だこりゃ。

最近悟偉がよくわからない。今みたいに変に頑固になったり、隠し事したり、学校では先輩呼びではなく名前呼びにしろと言ったり。こうなったのはいつからだっけ。

「……告白された時だ。」

そうだ思い出した。同じクラスの男子から告白された時からだ。悟偉に報告した時の表情は今思い出しても笑える。
ところで、この左腕を掴んで離さない痛みは何なのだろう。

「……あの、悟偉?」
「今何て言った。」
「へ?……って痛い痛い!腕が!腕がぁぁぁ!!」
「また、告白されたのか。」
「違うよ!?いやホント違うから!!離してお願いお願いします感覚が無くなってきてるよぉ!!」

パッと放されたはいいが先が冷たい。どんだけ強く握ってたんだ。

「何なのよ一体……。」

見ると悟偉はもうかなり前方へ歩いてしまっていた。速かった。まるで競歩だ。

「待ってよ悟偉!」
「追いつけ。」
「マジですか!?」



学校が見えてきた。なんとか追いついた私は肩で息をしていた。
なんで朝からこんなに疲れなきゃいけないんだ。

「体力無いな。」
「……うるさい。」
「ライブ、そんな調子で大丈夫なのか。」

痛いところを容赦無くついてくるのは幼なじみにも変わらない。

「……私は、吹くだけだもの。平気だよ。」

なんとか答えられたものの、今度は違うところを突かせてしまった。

「お前はボーカルでもいいだろう。最悪、ダブルでも。」
「注目されたいんだよ。私はサックスが吹ければいいし。そもそも、サックスとボーカルは両立できないし……。」
「そうか。よかった。」

誘ってくれた友達と、パート争いなんてしたくない。それを読み取ってくれたのか、悟偉はそれ以上追求しなかった。しかしよかったとはなんだ。私がサックス吹いててよかったと言う意味か。それとも、お前は歌わない方がいいとでも言うつもりか。言い兼ね無いけど、それは流石に前後が矛盾する。

「名前。」
「何?」
「俺は、お前の音しか聞いて無い。お前もお前の歌声は、俺以外に聴かせるな。」
「……え?」

そう言って悟偉は校門をくぐった。チャイムが鳴りはじめたから私も急いで後を追った。
今のは、そのままの意味で良いのだろうか。それとも、何か別の意味があったのか。

(……でも。)

悟偉に聴いてくれるなら、別にスポットライトを浴びたいとは思わなかった。

「ライブ、絶対に見に来てくださいね、音羽先輩!」
「……名前で呼べ。」

いきなり爆弾発言した仕返しだ。




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