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*は注意


許されるかは別として

歴史修正主義者との戦争。
果てのない殺し合いの先に俺達は何を得る。
得るものなど何も無い。俺達は道具だ。他の奴等は知らないが俺は主の役に立てれば何でも良い。
そう思っていた。その頃だったらまだ許された筈だ。
思うだけならタダだ。
胸の内にどんなものを抱えようが行動に出さなければ何の問題も無いのだ。
主の一番になりたい。それだけだ。

「過去を変えたいと思う事を私は否定できない。けれど、私の人生は過去の積み重ねの上にある」

主が言った。
仕事も無く出陣も終わった夜だった。
六畳一間の執務室で主は窓際に寄りかかり俺は下座に座る。
主の顔は窓の外に向いていて見えなかった。
またいつもの独り言だろう。
そう考えて俺は何も言わなかった。
自分の意見が口をついて出てしまっただけだ。人前では絶対にやらないだろうが、少し前から俺の前ではポツリポツリと零すようになった。主の懐に入れた様に思えて嬉しく思う。
こういう時は主は答を求めているのでは無い。
だいぶ長く主と近侍として過ごしてきた。
主のことならよく知っている。ある種の誇りだった。

「戦いが終わったらどうなるんだろうね」

電気を消した月明かりだけが照らす部屋。
主と俺の二人きり。
主の声は静寂に溶けていき、夏の夜の庭は蛍が儚く光っている。遠く虫の声がかすかに空気を揺らす。
この時間がずっと続けば良い。
俺が彼女を守り続ければ良い。
この戦争が終わらなければ良い。

(……何を考えている)

俺達は戦いを終わらせる為に呼び出された道具だ。
この様な思考、叛逆に値する。

「長谷部、どうかしたか?」
「……いえ、何も」
「そう。何かあったら言ってね」

主は鋭い方だ。俺が謀叛の思想を持ったことに気付かれた。
彼女は見ていない様で見ている。
彼女は勝つ為に最善手を打とうとする。
育て直す非効率を避ける為に一人たりとも折らずにお守りまで購入した。
どの様な地形にも対応出来るように全ての刀を鍛えあげた。
それでもまだ満足する事は無く、只管に力を求め指揮を執る。
彼女の四肢は隆々とした筋肉に包まれ、臓腑は呪いにより焼け爛れているのをこの本丸の刀は皆知っている。
主の命はそう長くない。
だからこそ必死になり皆戦っている。
世界の為、歴史の為、主の為。
この本丸の中で、ただ独り俺だけが主の本懐を妨げる事を望んでしまった。

「……ひとつ、よろしいでしょうか」
「何?」
「貴女は生きたいと思っていますか」

場合によっては刀解も覚悟の上だった。
主は勝つ為に己を全て捨てた。
俺達の力を上げる為に禁術へ手を出した。
俺は道具だ。
主の思うままに行動し、主の望む成果を挙げなければならない。

「戦争が終わってまだ生きてたら、考えるよ」
「……そうですか」

わかっていた答だった。
主に生きる気は無い。
この戦争と心中するつもりなのだろう。
何が彼女をそこまで駆り立たせるのかを聞いた事は無い。
道具だからだ。
使われるのが役目であり、そこに理由など必要無い。

「貴女は戦争で死んではいけない人だ」
「そうかい。それは、嬉しいね」
「貴女はもっと欲張って良い」
「欲張ってるよ。延々と続くと予想されている戦争を、私の代で終わらせようってんだ」
「それは欲なんかじゃない。呪いだ」
「何でも良いさ。代償なら何だって受ける。この戦いさえ終わればそれでいい」

変わらない。
主は最初から「終わらせる」為に俺達を顕現した。当然だ。
俺を誰も許す者はいないだろう。
誰も、何よりも主が許さない。
主と仲間と世界が俺を否定しようとも。

「俺は、貴女に生きてて欲しいのです」
「……頑張ってね」
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