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*は注意


「……あなた、面白いことを言うのね。」

俺には人の心が見える。何故俺は彼女にそれを告白したのだろう。

「……なら、私の心には何が在るか見える?」

冬も近づき、心細い街灯のみの暗い部活の帰り道。彼女は振り向き、全てを拒絶する様な瞳でそう言った。


*



やっと馴染めるようになってきた吹奏楽部。色物が揃っている中でも更に彼女は異質だった。異質ってだけならそれこそ少し前の音羽先輩並に。


彼女は普段はフルートパートに属している。部でも彼女と話すのはパートリーダーの吹越先輩くらいだ。しかも先輩が一方的に話しているのみ。
俺は一度だけ彼女に聞いたことがある。

「なんで、この部に居るんすか。」
「……会いたい人がいるの。」
「……は?」

返ってきたのは、そんな返事だった。それっきり、彼女とは話さなくなった。でも、心を見なくても伝わってきた。
寂しい、悲しい。
なんでだ、と思った。この人は口数が少ないとは言っても信頼はあった。たまに部員からの相談や愚痴を真剣に聞いたりもしていた。そんな人がこんな感情を見せるなんて思ってもいなかった。
気になった俺は、フェスが終わった数日後、部活帰りの彼女を追いかけた。



*



正直迷った。本当に見えたものをそのまま伝えるべきか。でも、ここまで話して嘘をつくのは憚られた。

「……真冬の夜の山小屋、が見えます。」

吹雪の中で壁は穴だらけで床はギシギシいってるようなボロボロの。
流石にそこまで詳しくは言えなかったが。

「……そう。そっか。うん、そうだね。」
「……?」
「君の目、すごい。本当だなんだね。」
「え……。」

驚いた。まさか、刻阪以外に信じる人がいるなんて。だからこそ。

「どういうことっすか。」
「……そのままの意味だよ。……歩こう。寒い。」

歩き出した彼女を慌てて俺は追いかけた。

「……私ね、好きな人がいるんだ。」
「……!
「転校しちゃったけど、ずっと一緒にフルートを吹いてた。それでさ、彼が転校する時、約束したんだ。」

全国大会で会おうって。

ぽつりぽつりと話し始めた彼女の声を聞いていてわかった。何故俺がこの人のことが気になったのか。
何故、こんなにも胸が痛むのか。

「……でも、2年間ずっとダメ金。やっぱり、参っちゃうよね。」

彼女は、きっとこの部の誰よりも全国に行きたくて行けない現実に絶望してた。
俺は、惹かれたんだ。それでも諦めない彼女の心に。
そんな彼女に隠し事をしたくなかったんだ。

「神峰君が見た山小屋ってきっとボロボロだったでしょ。」
「……はい。」

やっぱり。だから信じたの。
彼女はそう続けた。

「……でもね、私はそんな山小屋でもいいの。フルートが好き。この部が好き。鳴苑の吹奏楽部の皆が好き。だから、来年が、最後なの。」

全国に行かない限りずっと彼女の心に春は来ない。この人をあんな凍てつく様に寒い所にずっと居させたくない。護りたい、彼女の心からの笑顔が見たかった。
俺はバッと前を歩く彼女の腕を掴んで振り向かせた。

「……俺が。」
「……え?」
「俺が!あんたを、鳴苑吹奏楽部を全国に連れて行きます!!絶対!ボロボロじゃない、最高の場所にして見せます!」

たとえ思いは届かなくても、それでいいと思えた。

彼女は唖然としたけどすぐにフッと笑った。

「……賭けていい?」
「信じてほしいっす。」
「……うん。」

後悔させないで。

そう言って彼女は再び歩き出した。
吹雪の音は止んだ様に見えた。



131120 企画サイト「僕の知らない世界で」提出作品

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