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*は注意


男装主注意















昔から私は弱かった。
そんな自分が嫌で私は、自分が女だからと理由をつけてそれを隠した。
弱さを隠せば、強くなれた気がした。
私が女と知っているのは実家でも一部の者のみ。
一人称は「僕」になった。
本当は「俺」がよかったのだが、乱暴だからとよくわからない理由で止められた。
父親も私が「僕」である事を望んだ。母が死んでから男所帯となった組。父もまた、小さいながらもその組を背負う御家の長として強い妖怪を求めていたから。
誰も気づかなかった。
女である「私」を知っている者が殆どいないからか、中性的な顔立ちでもそういうものかと受け入れられた。
そうして「私」は「僕」になった。
そうなる事で、弱い自分を見なくて済むと安心していたんだ。
「僕」は弱くて臆病な「私」を隠す仮面であったのだ。



ある日、僕は父様に連れられて奴良組というところに行った。
そこで僕は鴉天狗様と引き合わされた。
どうやら僕はここで彼の息子達と共に働く事になるらしい。女であることにコンプレックスを持つ私への父様なりの気遣いだったらしいがその時の私は気づかなかった。
確かに僕の種族も鳥妖怪だし可能だろう。
御家の命令に逆らう気は毛頭無かった。



*



「君が黒羽丸君かい?」

僕は例の三羽鴉を探していた。
仕事上、彼らとの関わりは避けられないから挨拶をしておこうと思ったのだ。

「誰だ?」
「僕は名前。今度から君達の仕事仲間になる者だ。」

大きな庭が見渡せる屋根の上。
風がとても気持ち良い場所だった。

「ああ、お前が……。随分と小さいな。親父から話は聞いている。黒羽丸だ。これからよろしく頼む。」

そう言って彼が手を差し延べる。

「ああ、よろしく。それと、小さいは余計だ。人並みにはある。平均よりは下だがな。」

握手を交わして僕は彼に背を向けそのままそこを去った。
これが彼との出会いだった。



数年後。



「黒羽丸、これはどうしたらいい。」
「ああ、ソレは……。」

彼は私にとって無くてはならない存在になっていた。

「では三代目に報告してくる。」
「俺が行こうか?」
「黒羽丸はまた僕から仕事を奪う気かい?昨日も僕をおいてパトロールに行ったじゃないか。」
「あれはお前が寝ていたから、」
「起こしてくれと、頼んだよな?」
「……スマン。」
「その前も、僕の報告を、勝手に、三代目にしていたよな?」
「…………スマン。」
「更にその前も、」
「まだ言うのか。」
「……。」
「スマン俺が悪かった。」
「いや、僕も色々悪かったよ。」

小さくなった彼を見て流石に言い過ぎたかと反省した。

「でも最近どうしたんだ?仕事熱心にも程があるぞ。」
「そうか?」
「そうだ。気づいていないのか。」

最近彼は随分と僕によそよそしい。
何かしてしまっただろうかと不安になる。

「若が三代目に襲名したからといって張り切り過ぎなんじゃないか?」

笑って軽く言ったが、むしろそうであって欲しかった。ソレならまだ笑い話にできるのだ。

「……名前。」
「なんだ?」
「お前、女か?」
「頭を打ったのか。そうかそれは大変だな。」

言いにくそうに、しかしはっきりと聞いてきた彼は初めて会った時となんら変わらない。
そんな彼に私はすかさず毒を吐いた。
僕なりの処世術だった。

「違うのか?」
「違うよ。何なら胸、触ってみるか?」
「馬鹿か。」

彼の手を掴んで胸に当てようとした。そうしたらもう片方の腕で殴られた。そうなるとわかってやった。

「痛いなあ。」
「嘘をつくな。そんなに強くはしていない。」

嘘をつくな、か。全く酷なことを言う。
噂をついていなきゃ、弱い「私」が出てきちゃうじゃないか。

「僕が本当に女だったらどうするんだい。」
「女なのか?」
「そんな訳ないだろう。」

そう笑って流し、僕は報告に行った。
彼の顔は見なかった。
そういえば、彼と最初に会ったのもこの場所だったな。



一体僕はどうしたいのだろう。あんなことを言って、本当は「私」を引きずり出して欲しいなんて、思っていないと否定仕切れないのが笑えてくる。

僕はこのところよくさっきの様な質問をされる。噂にもなっているらしい。きっと彼も誰かから聞いたのだろう。
隠しきれないのだ。
肩はある方だが、やはり胸と腰はどうにもできない。妖怪の姿なら殆ど鳥人間みたいなものだからまだ良いが、人型の妖怪が多い奴良組ではそれも目立つ。人間の姿はもう殆ど「女」の体になっている。今は翼だけを生やしているが、限界が来たということなのだろう。

「失礼します、三代目。」

若の部屋に入って跪き、淡々と今日のことを報告する。私はその間ずっと、今後の身の振り方について考えていた。

(ごめんなさい。黒羽丸。)

逃げよう。
その実に「私」らしい結論に至ったのは早かった。いや、むしろ遅いくらいだ。
本当なら噂が流れた時点で以前の、彼と出会う前の「私」ならそうしていた筈なのだ。彼と離れたくなくてズルズルと今日まできてしまった。
それでももう多重の意味で限界だと悟った。

「三代目、少々、お話が。」
「なんだ。」
「しばらく、お暇をいただきたいのです。」

それを聞いた三代目が持っていたキセルを一息吸った。

「……そいつは、あの噂が関係してんのか?」

やはり三代目も知っていたか。その問いを肯定したら三代目はきっと、そんなもの関係無いと言ってくれるのだろう。

(それは、違うんだよな。)

確かに彼や皆は受け入れてくれるだろう。でも、私が「私」を受け入れられないんだ。そんなことできるならまず最初に「僕」なんて作らなかった。
顔を下げたまま僕は口だけ動かした。

「違いますよ三代目。父に呼ばれたんです。たまには帰って来いと。」
「……そうか。」

まだ納得のできない様子の三代目。きっとこうなるとは思ったから問題無い。このまま押し切らせて貰う。

「ではそういうことですので。失礼致しました。」
「名前。」

立ち上がり部屋から出ようと襖に手をかけた私に三代目が声をかけた。

「なんでしょう。」
「あいつは、黒羽丸は、待ってる筈だぜ。」

何を。聞かずともわかった。でも、それに答えるには「僕」でいる時が長すぎたんだ。
笑って言った。

「僕は僕ですよ。三代目。」

昔はこの言葉で強く在れた。
なのに今は何故だろう。「僕」を捨て切れない私が酷く悲しい。



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