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いつかどこかの彼女が死んだ日




先生の後ろをカルガモの子供のようにふらふらとついていく、その足取りはとても重かった。
気づいてしまったから。己の浅ましさに。
恋愛感情だと思ったんだ。本当に。そう思い込みたかった。
でも、「普通の」恋愛感情なら、自分を傷付けてでも、叱られるという形で尊重されたいと思うだろうか。

こんな、自覚したら吐き気がするようなものなのだろうか。

今までの感情が全て否定されていく。
世界が全て私の敵になっていく気がした。
私はこの人の何を見ていたの。
抱かれても良いと思ったのはなんだったの。
今まで言ってくれたこと、してくれたこと全部、親に重ねて見ていたの?
あの私の本当の両親をどうでも良いと切り捨てておきながら。
私から両親を引き離してくれた恩師に。

今すぐ死んでしまいたい。
彼と再開したあの日、あの日が始まりだった。
何故あの時死ねなかった。
こんな思いをするなら助かりたくなかった。
あのまま死んでおけば、何もかも気付かずに済んだのに!!

「どうかしたか」

ハッと現実に戻る。随分歩いた気がするけど、まだ全然ショッピングモールの中だった。
先を行っていたはずの彼が私の手を握っている。なんで。

「フラついていた。熱がぶり返したか」
「……いえ、大丈夫です」
「先に飯にするか?」
「いえ、大丈夫です。本当に」

嫌だ。
嫌だ。
彼に優しくされる度に、親の顔がちらつく。
顔なんてもう覚えていないのに。名前すら曖昧なのに。
それでも、私の親だと思う人たちが頭を過る。
やめて。
来ないで。
穢さないで。
大事な人なの。
私は汚くても浅ましくても、なんでも良いから、この人だけは。

「……荷物は明日にするか。今日は帰ってやす」
「行きます!行けます!」

彼があからさまに気遣ってくれているのがわかる。
それすら申し訳なくて、これ以上一緒にいる時間を長引かせたくなかった。
大切な人だってことはわかってる。わかってるのに、どうしてあの人たちのことが頭に過ぎるの。重ねたくないの。お願いだから消えて。
ただの記憶のくせに、こんな呪いみたいなことしなくてもいいじゃないか。

「……わかった」

鬼気迫る私に感じるところがあったのか、了承してくれた。
手は握ったまま離してくれなかった。

「ありがとうございます」

何に対しての礼なのかわからなかった。
わからないのが問題なのはわかっているのに、もう何もかもがぐちゃぐちゃだった。
こんな気持ちで彼の元にはいられない。
今日アパートから荷物を回収したら、明日、彼の家を出よう。
昨日居させてくれと土下座したばかりだけど、私はあそこに居てはいけない。居たくない。
いっそのこと、アパートに戻って、親の幻影に縛られて朽ちていこうか。

「お前今、何を考えている」
「……言いたくない、です」
「そうか」

握られた手に力が入る。それが逃がさないと言ってくれているようで、それが嬉しいとちゃんと思えるのに、どうして私は。

この腕を、振り払いたくて仕方ないのだろう。



「あ、この車の持ち主さんですか?」

ショッピングモールを出た瞬間、私たちは婦警さんに話しかけられた。
ふわふわして優しそうな人だったけど、どこか芯の通った感じがする。
隣の先生の手に力が入った気がした。

「……真菰」
「お知り合いですか?」
「…………ああ」

いつも以上に間があった。
心なしかさっきまでの覇気も消えているような。
真菰と呼ばれた婦警さんは私に目を向ける。警察の制服を着ていても高圧的ではなく、先生のことで頭がいっぱいだった私には、ある種の安らぎにもなった。

「義勇の彼女さん?ごめんね、これからちょっとカッコ悪いお話するね」
「彼女じゃない」

カッコ悪いお話ってなんだろうと思ったけど、それ以上に彼女に間違えられて即座に彼自身に否定されて、行き止まりのような閉塞感を覚える。

「うん、義勇に春が来てよかったね。でもやっぱり義勇の車だった」
「春は終わったぞ」
「先生、そういう話じゃないと思います」

つい訂正を入れてしまったけど、本当は入れたくなかった。
また、そういう関係だと思われて心が重くなる。
本当に彼氏彼女だったら良かったのかな。
本当にそういう関係だったら、先生は私の彼氏ですって胸を張って言えたら、こんなことで悩まなくて済むのかな。
そこまで考えてダメだと首を振った。
自分のことばかりだ。先生のこと何も考えてない。こんな打算的な考えで恋人になりたいとか考えちゃいけない。

「あのね、ここ、駐車禁止エリアだよ。乗り捨て厳禁」
「……」
「罰金よろしくお願いしまーす」
「……」
「お金ないなら降ろしてきてね」
「……」
「だめだよ、私もお仕事だから」
「……」
「この状況がもうカッコ悪いよ」
「……」
「ATM反対側の入り口の方にあるから。彼女さんはちゃんとお預かりしておくから」
「……彼女じゃない」
「うん、いってらっしゃい」
「……」

真菰さんが手を振って冨岡先生をモールの中に送り返す。真菰さんと一緒にいた婦警さんも一緒について行く。
この間、先生は殆ど喋っていなかった。私との関係の否定だけはしっかり口に出したくせに。

「……凄いですね」

ポツリと呟いた瞬間に後悔が襲ってくる。
何がしたいんだ私は。嫉妬だけは一人前にするのか。
棘のある私の言葉にも真菰さんは動じずに返してきた。結果的に、私は自分の首を自分で締めることになった。

「付き合いだけは長いですから。錆兎の方がもっと上手に表情読むけど」

ふわふわとしてるのに、自慢気に感じたのは私の性格が捻くれてるからだろうか。
でも悪い人ではないんだと思う。寧ろかなり良い人。
だからこそ申し訳なさすぎて穴に埋まりたくなった。こんなことなら私の呟きなんて騒めきに消えて欲しかった。

「貴女、園城さんでしょ?錆兎から聞いてる。私は真菰で良いよ」

柔らかい笑顔で告げられる。
先生と錆兎さんと真菰さん、どういう関係なんだろう。
気になるけど聞けなかった。
どんな関係だと言われても私にとっては嫌な結果になると思ったから。
それくらいのことは今のやりとりだけでわかったから話を逸らす。

「先生が駐禁取られるとか凄く意外でした」
「うん、私も車見たとき驚いた。知ってるナンバーだったからね」

先生の車のナンバー知ってるんだ。
どうしてもこんな思考になってしまう。
自分自身に嫌気がさして俯く。地面と靴だけの視界なら少しは楽になるかと思ったのに、全然苦しいままだった。

「嫌わないでね」
「え」
「義勇のこと」
「……私はそんなこと」

真菰さんの言葉に途惑う。別に今更駐禁取られていようが、マイナスポイントにはなりやしない。学生時代、何回彼にパシられしばかれたと思っている。
いっそのこと、嫌いになれたらわかりやすくて楽だったのに。
真菰さんが苦笑した気配がした。

「そこ見て、ブレーキ痕があるでしょ」

白く綺麗な指で道路を指し示す。そのアスファルトにはたしかに黝ずんだタイヤ痕があった。
跡の長さと路面の材質で車が出していた速度がわかるのだと真菰さんは教えてくれた。

「これ、百キロは出してるよ。高速でもないのにね。止め方もすごい雑だし」
「……」

確かに道沿いにピッタリと止めているのではなく、斜めに車線にはみ出している。まるで停車できればそれでいいと言わんばかりに。

「それくらい急いでたんだよ。理由は私は知らないけど」
「……!」

思わず顔を手で隠した。
それが照れ隠しならよかったのに。
私を襲った感情は「私のせいで先生に迷惑をかけてしまった」という自分自身への怒りだった。
先生がここまで急いだのは私の為だ。
いくら馬鹿でもそれくらいわかる。
梅ちゃんからあの盗撮写真を送られて、凄く急いで来てくれたんだ。
そう自惚れたかった。答え合わせなんてしないから、そうやって素直に優越感にでも浸っていられれば、話は簡単だったのに。

「……なんの話をしている」
「あ、おかえり。お疲れ様」
「……」

そうこう会話しているうちにもう一人の婦警さんを連れて先生が戻ってきた。
黙って真菰さんに封筒を押し付ける。機嫌が悪いことを顔に隠そうともしていない。
真菰さんが封筒からお札を出して数える。

「はいピッタリ。減点もするからね」
「……もういいか」
「待って」

車に向かおうとした先生を真菰さんが呼び止める。

「義勇、ちょっとお話しあるから耳貸して」
「……なんだ」
「いいから」
「……美小代」

突然呼びかけて、先生が私に向かって何かを放り投げた。
慌ててそれを落とさないように拾った。それは電子キーだった。多分、先生の車のだ。

「先に入っていろ」
「……はい」

キーを使ってそのまま先生の車に乗った。再会した時乗せてくれた席も助手席だったから、迷ったけど、後部座席にした。助手席には電子キーだけ置いておいた。
助手席だと先生と真菰さんが話しているのが見えてしまうから。
街の街頭も暗いフィルムの貼られた車窓で減光される。暗くて静かで、私にはこちらの方が落ち着いた。
何の話をするんだろう。
気にする資格なんて無いのに、気になってしまう。
この感情は独占欲なのか。
先生は先生で、私の両親でも家族でもない。
ましてや恋人ですらないのに。
こんな感情持っちゃいけない。
膝を抱えて蹲る。ローヒールのパンプスが脱げ落ちた。
靴擦れでストッキングの爪先に血が滲んでいる。今日、先輩に連れられていっぱい歩いたからかな。
……この靴、もう随分長く履いているから、爪先とかボロボロなんだよね。
梅ちゃん先輩は私の上下のOLスーツを青いスエードのワンピースに変えてくれた。印象は確かに変わったはず。

「……いたいなあ」

すぐ近くにいるのに。
それなのに彼は何も言ってくれなかった。
爪先も、血が滲むほど噛み締めた唇も、心も痛い。
再会なんてしなきゃよかった。
あのまま飛び込んで死んでおけばよかった。
それならば今、こんな辛い思いしなくて済んだのに。
バン、と音がして前のドアが開いて誰かが乗ってくる気配がした。

「……なぜ後ろにいる」
「お気になさらず」」
「……」
「お話は終わったんですか」
「ああ」
「鍵、前に置いてあります」
「ああ」

先生が鍵を取ってエンジンをかける。
静かだった車内がエンジン音や空調の音でうるさくなる。

「……お前の家に向かうが、大丈夫か」
「はい。行ってください」
「……先に飯にするか」
「え」



「俺の腹が減った。付き合ってくれ」

そう言われたら逆らえない。
モールにもう一度入るのは気が進まなかったのか、彼はそのまま車を走らせて、ある食堂の駐車場に停めた。
そこは再会した日に連れてこられた食堂だった。
運転している間、会話は無かった。
お互いに疲弊していたように見える。先生は仕事終わりなのだし、それであの騒ぎなのだから当然か。
店内はちょうどピーク時だったのか混み合っていた。それでもテーブルに二人くらいならなんとか座れた。
注文して料理が運ばれてくるまで、またしても会話はなかった。

「……いただきます」

先生はやっぱり鮭大根。ストレス発散も兼ねているのだろうか。いつもより食べるスピードが少し早かった。食べながら喋れないのは相変わらずのようで、私も料理に口をつける。温かい親子丼とお味噌汁。

「……ッ」

さっき噛み締めたせいで温かい味噌汁が少し染みた。冷たいものにすればよかったかなと少し後悔する。
今の、バレなかったかな、と向かいに座る彼を見ると、ばっちり目が合った。
合ってしまった。
すぐに顔を背けた。全部見抜かれているようで怖かった。

「……切ったのか」
「大丈夫です。大したことないですから」
「……そうか」

やってしまった。
また、彼の気苦労を増やしてしまった。
けれど彼はもう何も言わなかった。
もう一度ちら、と視界の端で彼の顔を伺っても何一つ読めやしない。
結局食べ終わるまで会話は一切無かったけれど、視線だけをずっと感じていた。






「ごちそうさまでした」

食べ終わって、すぐに、今度こそと財布を取り出す。
奢ってばかりなのだから今回は絶対に私が払うのだと気合を入れてレジへ向かった。

「お会計もう頂いてますよ」

その気合は店員さんの言葉に完膚なきまでに叩き潰されたのだが。
呆然とする私の背中を、すっと出口へ向かう先生が通る。

「え、いつのまに」
「気にするな」

すれ違い様に気にするなと言われても気にするに決まっている。
店を出て車に向かう彼を慌てて追いかけた。

「せ、先生!あの、お金」
「いい」
「そんなわけには」
「構うな」
「構います!」

足を止めない彼を小走りして追いかける。脚の長さの差か、全然追いつけない。
彼の意図が読めない。
困惑とこれ以上優しくされるわけにはいかないという焦燥感が足を縺れさせる。舗装の劣化したアスファルトの段差にヒールが引っかかった。
それだけならよかった。

「えっ」

ぐらり、と踵から力が抜ける。
ヒールが取れた。年季入ってるからとか、買い替えとけばよかったとか、そういうどうでもいいことが脳裏をよぎる。
転ける。
そう認識した時にはもうぐらりと視界は揺れていて、またカッコ悪いところを見せてしまうなとか、今度はそんなことを考えながら目を閉じる。
けれど、いつまで待っても、痛みはなかった。
受け身を取ろうと伸ばした手も宙を切った。
それもその筈。
先生が抱き止めていてくれたのだ。
私の腕と腰に手を回して、正面から抱きかかえるようには受け止められる。

「ご、ごめんなさい」
「……細いな」
「えっ……ひゃぁっ!」

腰に回っていた腕に力が込められて、抱えあげられるようにして乱暴に車に押し込められた。
力が強くて、全然勝てなかった。

「せ、せんせ」

自分が助手席に押し込められたと気付く前に先生が運転席に座る。無言でエンジンがかかり、初夏の蒸し暑い車内に空調の風が吹く。

「お前の食費はこれからは全部俺が出す」
「え」
「いいな」

よくない。
これ以上迷惑かけたくなくて、早く出ていかないとと思っているのに。あの家が心地よくなるまえに、出ていかないといけないのに。
絶望にも似た焦燥に駆られる。
これ以上優しくされたら、本当に愛されていると錯覚しそうになる。
愛は呪いだ。
追いつかれてはいけない。いつもいつも私の背中から絡み付いてきて、その手を首に回してくる。苦しくて苦しくて、愛されることが苦痛でしかなくなったのはいつからだったろう。
彼にはそんな私を見せたくなかった。

「じゃあ私は家賃出します!!」
「そういう話ではない。それに俺の家だから家賃はいらん」
「だったら光熱費!」
「お前一人増えたくらいで変わるか」

悲鳴染みた声で言っても先生は譲らない。知っている。一度決めたことを簡単に覆すような人じゃない。
それでもやめてほしかった。
これ以上私を甘やかさないで。先生の家から出られなくなる。
どうして。
それだけが頭の中に浮かんだ。

「……なんで、ここまでしてくれるんですか」

エンジンをかけていた先生が動きを止めた。
ラジオの音がスピーカーから流れている筈なのに、彼と私の間以外を真空の膜が覆われたようでなにも聞こえない。

そうして紡がれた言葉は死刑宣告と同義だった。

「好きだ」

すとん、と全てが腑に落ちた。
とすん、と首が切り落とされる音がした。
落ちた首を拾い上げる。幼女のものだった。その幼女の顔が、両親からの愛を乞い求めたかつての自分のものだと気づくのに時間はかからなかった。
親からの無償の愛というものを信じていた私が今、声も出せずに死んだ。

「……」

返事ができなかった。
ここで首を縦に振れば、私と彼の間には恋愛関係が成立する。
俯いて目を閉じると、そうすればいいじゃないかと、囁く声がした。
数時間前までの私だったら抱き着いて涙を流して受け入れただろう。
でも、だめなんだよ。それは。
今の私じゃ、どう足掻いても正面から彼の気持ちに応えられない。
それは彼の思いを踏み躙ることだ。

「返事は今でなくていい」

私が何かを言う前に先生が車を動かした。
ハンドルに右腕をかけながら私の座る助手席に左腕を回して後ろを見る。
顔を後ろへ向けた時に伸びた首の喉仏。
私のすぐ後ろのヘッドレストへ伸びる腕。
全部全部男の人なんだと意識して、それでも私が感じたのは胸の高鳴りなんてものではなかった。
この人はいつでも私を殺せるのだと恐怖。
記憶の中で父親と相対した時に常に感じていた感情だった。
ーーー吐き気がした。
今すぐ降りたかった。この場から逃げ出したかった。
私は、本当に彼と父親を重ね合わせたのだと自覚する。
いっそ殺してほしかった。
人生の恩人に対して糞親父と重ねる不義理者がいるか。
恋愛をしたかった。
どうして私はいつもいつもこうなるのだ。
彼とあの糞親父はちがう。
わかっているそんなこと!!
今すぐにでも叫んで喚き散らして、胸を掻きむしって、心臓を抉り出して潰してしまいたかった。
そうすればきっと彼は離れてくれる。
こんな気色悪い女なんて見捨ててくれる。
好きだと言ったことなんて気の迷いだったのだと気付いてくれる。
……そうできなかったのは、彼だったから。
無償の愛の幻想に裏切られて、恋愛に騙されて、それでもなお、しぶとく生き残っていた彼の生徒としてのプライド。
彼の前では、ただの、「普通の」人間でありたいと、ギリギリのところで踏ん張って見栄を張って、どれだけ醜態を晒そうが、このプライドだけはまだ貫ける筈だと信じたかった。
だから、彼の思いにきちんと向き合いたかった。
でもその方法がわからない。
返事は今でなくとも良いと、彼は猶予をくれた。
でもそれは慈悲のように見えてその場凌ぎでしかない。
今すぐ解決策を見つけなければ、まただらだらと先延ばしにして流れてしまうかもしれない。
どうしたらいいのだろう。
今私が彼の気持ちに応えられないのは、私が彼をどう思っているのかわからないからだ。
恋愛感情は確かにあると思う。
でも、私はまだ、親の幻想に囚われてる。

『見分け方、教えたげよっか?』

ふと、光明が差した気がした。そう錯覚しまった。
昼間に話した彼女の会話を思い出す。
あの時は駄目だと否定してしまった。
色仕掛けなんて失礼過ぎるし、自分が恋してると思っていたから。
でも、今なら。
どうせもう、何もかも失いかけているのだから。
断られたらさっさと彼の家を出て、二度とこの街に帰って来なければいい。
そう考えてしまったら、それが本当に良い考えだと感じてしまう。
成功しても、失敗しても、待っているのは地獄だというのに、この時の私は馬鹿を極めていた。

「先生」

車を走らせる彼に声をかける。
顔は見れなかったけど、いつのまにかラジオは切られていた。

「私のこと、抱いてください」




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