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後藤藤四郎


風花という現象がある。
海の水が風に乗り、山を超えたときに起きる現象だ。晴れた空から雪が舞い散るように降ってきて、とても美しく輝く。

「綺麗なんだよ。本当に」
「へえ、大将はそれを見て育ったのか」
「うん。私の故郷で一番好きな景色だった」

新雪の降り積もる冬の本丸の裏山を新入りの後藤君と一緒に登る。一歩踏み出す毎に足がズブリと沈み、後ろの後藤君は傍の木を支えにしてとても歩き辛そうだった。

「大将はなんでそんな早く歩けるんだよ」

口を尖らせて言う彼に故郷の子供達を思い出した。

「慣れてるからね。ほら、もうすぐだから頑張ろう?」
「つーか俺、結局どこ行くのか聞いてねーんだけど!」
「サプライズってやつだよ。あ、見えた」
「着いたのか?」

獣道をぬけてしまえば、目的地は着いたも同然だ。開けた山の中腹の高台。これだけでも青い空と白い山々のコントラストが素晴らしく、充分見晴らしの良い場所だったが私はその中でも高めの大きい丸い岩に登る。

「ちょ、あぶねーよ大将!」
「へーきへーき皆の時もやってるから。ほら後藤君、いいもの見えるよ」
「だから兄貴達ぜってー目離すなって言ってたのか……」
「えー、一期達そんなこと言ってたの?ま、いいや。おいで」

岩の上から手を伸ばすと、照れ臭そうにそれを掴む。よっ、と一声かけて上まで引っ張り上げると、身軽に着地する。こういう身体能力はやはり刀剣男士なのだろう。

「で?何が見えるんだ、よ……」

彼の目にはどう映っているのだろうか。
私には白く輝く山峰と青く澄み渡った空、裾野に広がる深緑の針葉樹の森。そして、皆が日常を営む本丸の母屋が眼前に見下ろせた。
本丸を囲む結界の中で私が彼らに見せられる、最も美しい景色だった。
雪が全てを吸収し、静かな場に風の音だけが耳に響く。

「これが、君の帰って来る場所になる」
「俺の」
「これからの君の居場所だ」
「……大将の故郷は、もっと綺麗なのか?」
「……そうだね。人生で、あの風花より綺麗な景色は見たことがない」

昔は何度も試したが、あの景色の再現はできなかった。

「見てみたいな。それ」
「……いつか、見れるさ。この戦いが終わったら、きっと」
「じゃあ、終わるまで、折れられないな」
「そうだね」

約束はできない。
この時の私たちは、希望論でしか未来を語れなかった。


きみがため様掌編企画「四季諷詠」提出作品です。
素晴らしい企画、ありがとうございました。
さらさらと書けて、小説を書く楽しさを思い出させてくれました。本当にありがとうございました。
2015/12/16 01:48