※赤也視点 優花先輩の第一印象。仁王先輩の彼女っぽくない。 って言ってもまあ仁王先輩は今まで彼女なんて作った事もなかったんだけど、イメージみたいなもんだ。仁王先輩の周りにいる女って大体は、ふわふわの茶色い髪をピンクのシュシュで結んでるいかにも女らしい女だったり、香水がきつい金髪の美人だったり、黒髪ショートの巨乳だったり、まあ端的に言えば男ウケする女ばかりだった。仁王先輩の風貌ならああいう種類の女が集まってくるのもまあ納得できる。しかし仁王先輩がある日彼女だと紹介したのは、何の特徴もないフツーの女子だった。まあよく見ると可愛いレベルで、今まで仁王先輩に付きまとってた女と比べれば、言っちゃ悪いけども月とすっぽん?とかいうやつで。しかも大抵の女は仁王先輩狙いでも俺達にも色目使ったり、ブリっ子をしてたりとしていたわけだ。こればっかりは女の性か、なんて思ったりもしてたけども、優花先輩は紹介されるなり「この人達と関わりたくないから別に紹介しなくてもいいのに…」なんて言ってのけたのだ。本人達がいる前で。 もちろん幸村部長なんて見るからに不機嫌になって「なにこの女」と喰ってかかったが、優花先輩がうわこれが噂の幸村、ともっと嫌そうな顔をするのを見て、少しだけその表情は興味深そうなものへと変わった。それから、こいつ名前なんていうの?と仁王先輩に向かって問い掛ける。優花先輩はこいつ呼ばわりかよ、と言い返していた。口が悪い。第二印象。 「吉田優花ちゃん」 「吉田ね。これからよろしく」 「よろしくされたくないです」 「こら、優花ちゃん」 「……よろしく」 思い出せば、この頃はまだ仁王先輩は今みたいにデレッデレというわけでもなく、優花先輩にちゃんと意見を言うべき所はびしりと言っていた気もする。いつからあんなんになったんだろ思い出せねぇ。まあ、そんなこんなで俺達と優花先輩の出逢いは最悪なものに近かったのにもかかわらず、俺達と優花先輩は日を重ねるごとに仲良くなっていた。幸村部長と逢えば相変わらず口喧嘩もしていたが、口喧嘩もこれだけ長く続けば仲の良さの裏返しだろう。 何と言っても優花先輩が俺達に興味がないので仲良くなるのは苦労したが、仲良くなるにつれて優花先輩は本当に不思議だと何度も思わされた。 仁王先輩が惚れたのも頷けますよね、と言えば仁王先輩に優花ちゃんはやらんぜよ、と釘を刺されたけども。別にそういう意味で言ったんじゃなくて。 「不思議っつーか、変わってるっつーか」 部活後のクールダウンのためにストレッチをしながら、仁王先輩とそんな会話を交わす。仁王先輩はダルそうに脚を伸ばして「そうじゃの」と返した。 「幸村部長と口喧嘩できるとことか、掴めないとことか、めんどくさがりなとことか。最初はフツーだなと思ってましたけど」 「はは、フツーのようでフツーじゃなかろ」 そう言って笑う仁王先輩に「フツーじゃないっスね」と俺まで笑みが込み上げてくる。二人でしばらく笑い合っていると、仁王!と幸村部長のよく通る声が仁王先輩の名前を呼んだ。ふとそちらへ視線をやれば、幸村部長に首根っこを掴まれている優花先輩の姿。弾かれるようにして立ち上がる仁王先輩に、俺は内心やれやれまたか、と溜め息をつくのだ。 「不快な顔が見えたからつい」 「ついってなに!黙って待ってただけじゃん!幸村精市まじ爆発!」 「ぎゃんぎゃん叫ばないでくれるかな、躾のなってない子犬みたいに」 「子犬可愛いじゃん」 「吉田の場合ブルドッグかパグね」 「ブルドッグとパグディスってんじゃねーぞ!」 やいやいと煩い二人を見やりながら、部員達もやれやれまたか、と俺とおんなじような顔をして部室へと入っていく。止めに入るのはいつも仁王先輩で、校門で待っててって言ったじゃろ、と幸村部長から優花先輩を引き剥がした。優花先輩は解放されてケホケホと咳き込みながら「だって校門、風紀の尾澤がいてさあ」と眉をひそめる。 「…っていうかそんな事言うなら、先帰ってても良かったんだけど」 「い、いやじゃあ!帰らんで…!」 「じゃあ早く着替える」 「絶対待っててな、絶対、絶対じゃよ!」 「だから早く」 腕を組みながらそう答える優花先輩に、幸村部長は「仁王もよくこんなのと付き合ってられるよね」と微笑みを零しながらさらりと毒を吐く。それに優花先輩も言い返してまた喧嘩に発展していたが、今度は柳先輩が止めに入っていた。優花先輩を宥めるために頭を撫でていたのを、急いで部室から出てきた仁王先輩が目撃して、仁王先輩が「浮気じゃ浮気!」と泣きそうな勢いで叫ぶ。日常茶飯事。関わりたくねーと黙って部室に駆け込もうとする俺が、その日常茶飯事に巻き込まれる事すらもまた、日常茶飯事なのである。 ※きゃっきゃあ騒いでたはずのヒロインちゃんがテニス部の連中が嫌いになった理由はまた判明する はず |