「雅治ってさ」 「なんじゃ」 「かっこいいよね」 途端、雅治は飲んでいたカフェオレをふきだして、ごほごほと噎せ始める。私はその光景を眺めながら自分の分のパックの牛乳をちゅーと吸った。身長を伸ばすためと、胸のために飲み続けてはいるが、実際効果があったとは言い切れない。まあそれでも習慣のようなものだから、毎日飲んではいるけども。 「なん、いきな、ごほっ、優花ちゃ、」 「あーもう汚いなぁ」 ハンカチを出して口元を拭いて、背中をさすってあげればようやく雅治は落ち着いたようで「優花ちゃん熱があるかもしらん」と私のおでこに手を伸ばしてくる。ねーよ。私は正常だよ。 「かっこ、いい?」 「うん」 「俺?」 「雅治かっこいいよね」 「!優花ちゃん……」 優花ちゃんも世界一可愛い、好き、といつもの調子に戻った雅治は、ハートを飛ばしそうな勢いで私に抱き着いてくる。ぐえ、と変な声が出れば皆が一瞬振り返って、またそれぞれ話に戻った。そう、ここは教室なのである。昼休みに雅治が教室に遊びにきて、買ってきてくれた牛乳を飲んでる時に、ふと思った事を口に出したのが間違いだったらしい。 でもまあ、雅治がかっこいいのは本当である。容姿は、可愛いというよりはかっこいいで分類されるのが普通だろう。実際、かっこいいって騒がれてるし。 「遠く見つめてる時の横顔好きかも」 「優花ちゃん見つめてる時が一番凛々しいと思っとるんじゃけど」 「別に凛々しくない。なんかでろんってしてる」 「嫌な効果音ナリ」 雅治は横顔ねぇ、と呟いて自分の頬に手を当てる。あ、でも今見ても別にかっこいいとは思わないや。いつもの緩んだ顔である。私の前ではかっこいいと噂の雅治はどこへやら。雅治は本当にいっぱい顔を持っていて、どれが本当の顔なのか分からなくなる。それとも、私の知らない顔がまだあるのかもしれない。そう考えるとやっぱり雅治は、面白い。一緒にいて飽きない。だから好きだ。調子に乗るから絶対に言ってあげない、けど。 「雅治はさ」 「ん?」 「私のどの表情が好きとかないの。あ、全部はなしね」 ぜ、と言いかけた雅治は私の付け足しの言葉にしょんぼりして、んーと再びカフェオレのストローを口に含む。 「雅治、って呼んでみてくれんか」 「雅治」 「もっと」 「…雅治」 「もっともっと」 「もう、何なの」 雅治のいきなりの要求にくすりと笑えば、雅治は目を細めて「それじゃ」と笑う。 「目尻下げて、ふんわり笑うのが、好き」 かわいい、とうっとり呟かれた言葉に、私は思わずポカンと口を開けて、雅治を見つめた。 「その驚いた顔とか、怒る時も、泣く時も、もちろん笑った顔も。これまで優花ちゃんが俺に見せてくれた顔は、全部好きじゃよ」 みるみる頬が赤くなるのを感じて、ガタンと立ち上がると雅治に牛乳パックを押し付けて、トイレ行く!なんて適当な理由をつけて教室から逃げてやった。ばか、好きとかかわいいなんて、いつも言われ慣れてるはずのくせに。いつもならはいはいって流すくせに。ときめかせないでよ雅治のばか。 でも簡単にときめく私は、もっとばか! |