「優花ちゃん」 「なに」 「デートしたい」 「してるじゃん。家に二人でいるじゃん。お家デートだよねこれね」 「ちがくて!外に出たいんじゃ…手ぇ繋いで歩いて、もう片方の手でクレープ食べたい」 「女の子か」 私が寝転ぶベッドに背中を預けて床にぺたんと座っている雅治に「雨だし今日はやだ」と言うとひんひん泣き言を言いながら抱き着いてきた。雅治の手が私の読んでいた雑誌を取って没収じゃ〜!なんて力無く言われる。正直、鬱陶しい。 「だって雨めんどいよ。髪の毛も今日まとまんないし絶対外出たくない」 「優花ちゃんの今日の髪の毛、ふわふわで好きじゃよ。ぺったんこの日も好き。ポニテしてるのもカチューシャつけてるのも、」 「はいはい」 いつでも全身全霊で疲れないのかな、この子は。傘差すのもめんどいね、と付け加えてみれば「俺が差すから相合い傘しよ」とほっぺに口付けられる。 「そしたら手も繋げないし、クレープ食べれないよ?」 そう言ってやれば雅治はえっ、と驚いたような顔をする。しばらく考えた後で、ホントじゃ…と本気でショックを受けた様子だったけども、優花ちゃんと外歩けるならなんでもよか、と開き直った。頬に押し当てられた唇は、吸い込まれるようにして私の唇を塞ぐ。緩く口を開けば、ん、と応えるように舌がぬるりと口内を犯した。私の顔を固定するように添えられた手にそっと触れて、キスの合間にまさはる、と小さな声で囁く。その声に気が付いたらしい雅治は、私の唇を名残惜しげに啄んだ後で、なんじゃ?と応えた。 「……外行ったら、キスもできないよ?」 「…………」 「今日はお家でゆっくりしよう?雅治と二人きりがいいな」 実はあと20分後にどうしても見たいテレビがある事は伏せて、我ながら少し気持ち悪いくらいの甘い声で甘い言葉を出してみる。いつもはこんな事言わないから、もしかしたら何が起こったと疑われてるかもしれない、なんて考えながら雅治を見上げていると、雅治は黙ったままこくりと頷いた。よかった、と心の中で安心したのも束の間で、再び重ねられた唇と太腿を這う不埒な手。私の叫びは全て雅治の唇に呑み込まれて、さっきとは比べ物にならない深くて長い口付けに、うまく息さえ出来ない。苦しいと訴えようと雅治の胸を叩いた手はそのままベッドに縫い付けられて、そこで初めて私は自分の作戦がある意味失敗だったと知る事になる。変なスイッチ入ってる。最悪、これは詰んだ。 「雅治、雅治あのね、」 息も絶え絶えに雅治を止めようとするものの、優花ちゃん、とぞくりとするくらい低い声で名前を呼ばれて鎖骨にキスを落とされれば、あとはもう、雅治にされるがままである。 雨は、まだ止みそうにもない。 |