「みてブンちゃん、優花ちゃんにもらったナリ」 にへら、とだらしない笑みを浮かべて仁王が見せてきたものは、ただのいちご味の飴だった。お前甘いものそんなに好きじゃなかったよな、と言ってやれば「優花ちゃんから貰ったもんは別じゃ」なんて言いながらいそいそとポケットの中に飴を入れる。そういえばこいつは優花と付き合うようになってから、調理実習で貰ったというクッキーやケーキを、授業中にもずっと見つめていた事すらあった。一口貰った事もあるが、正直普通の味。チカちゃんとかアヤミちゃんが作ったやつの方が、数倍美味い。なのに仁王は世界で一番美味しいだの優花ちゃんが作った世界唯一のもの!なんて恥ずかしい事この上ない事を言って、本当に旨そうに食べるのだ。変な奴。まじ愛の力?ってやつはすげぇ。 「なに、それ美味いの?」 「優花ちゃんが、ブンちゃんにはあげんなって言うとった」 「なんでだよ」 「豚にするとわたしが幸村に怒られる〜って」 「あいつ殴る」 優花ちゃん殴ったら俺が許さんぜよ、とか言って怖い顔をする仁王をはいはいと適当にあしらい、携帯を開く。うお、もう休み時間3分しかねぇじゃん。 「大体、優花のどこが良いんだよ」 「全部」 「敢えて言うと?」 「唇」 聞くんじゃなかった。すぐに後悔した。今、ちょっと鼻水ふきかけたじゃねーかこいつは馬鹿なのか。いつちゅーしても甘いんじゃよ、不思議ナリ〜とか言ってるお前の頭の中が不思議だ。ああやだやだ、こいつらみたいなのをバカップルっていうんだよな。いやこの場合、馬鹿やってんのは仁王だけども。 「元々告ったのって、どっち」 「優花ちゃん」 「えっ」 意外。ちょっと意外だ。てっきり仁王からかと思ってたわ、今の惨状、おっと現状を見る限り。優花ちゃんホントに可愛かった…と回想モードに入ろうとしている仁王の頭をぱしぱし叩いて「なんて告白されたんだよ」と尋ねてみる。ちょっと興味あるじゃん、なんか。 「フツーじゃよ。俺、最初は優花ちゃんの事振ろうとしとったもん」 「は?」 「今は女の子と付き合う気はない、って言ったらじゃあ男の子となら付き合うの?なんて聞いてきたから、その面白さに惚れた」 「ちょっ」 「付き合ってみたら優花ちゃんすごい可愛くて、それから色々あってイマココ!って感じじゃ」 「お前らまじ告白から今に至るまでに何があった」 「雅治!」 噂をすればなんとやらである。もうあと1分でチャイムが鳴るというところで教室に滑り込んで来たのは、優花だった。仁王は途端に目を輝かせて「優花ちゃん!」と抱き着こうとしたが、見事に避けられていた。なのに仁王はまだ尻尾を振る犬の如く優花ちゃん優花ちゃん!と優花の名前を呼び続ける。なあまじ、何があったの告白から今までに。 「私の辞書、借りっぱでしょ。次の時間いるの、返して」 「あっ!」 「だから使ったらすぐ返してって言ったのに」 「ごめん、優花ちゃん怒っとる?俺の事嫌いになった?」 「いいから辞書」 仁王は机の上に置いてあったピンクの電子辞書を優花に返して、しゅんとした顔で優花を伺う。エア尻尾と耳が見えた。やっぱりあいつらのやり取り見る度、よく優花は別れようって言わねぇなと思う。いや言ってるかもだけど。仁王が許してくれない確率、78%…とかちょっと柳っぽく言ってみる。 本当は告白したの仁王からじゃねぇの?強がりなんじゃねぇの? 「怒ってもないし、嫌いでもないから、顔あげて」 「優花ちゃん!」 「あーもう、授業遅れるから離してよ」 ひしっと抱き着かれた優花は、仁王の頭を撫でてながら溜め息をついていた。ご愁傷様、と手を合わせてはみたが、充電じゃ〜とか言って離さない仁王に、電池3つで満タンだから平気だって、と笑いながら受け答えをする優花を見ながら、やっぱりあいつらはなんだかんだでバカップルだと俺は確信したのでした。完。 はいチャイム鳴ってるからお前ら早く離れろ。消しゴム投げんぞ。 |