「なんで」 「なんでって言われても……」 「も?」 「…ああもう、とりあえず泣き止んでよ雅治……」 「!優花ちゃん、怒ってるんか?」 「怒ってないよ」 うそ、絶対怒ってるナリ、俺の事嫌いになったんじゃろ!そう言ってぐすぐす鼻をすすりながら私の胸に顔を埋めてしまった雅治に気付かれないよう、小さくため息をつく。私の彼氏はとんでもなくヤキモチ妬きで、泣き虫で、疑り深くてその上泣き虫だ。泣き虫は大事な事なので二回言いました。普段はなんか気だるそうな雰囲気で、えろやかとかクールとか言われているけども、私からしたら雅治は手のかかる大きな子供である。子供というよりも、なんかペットみたいな感覚。 優花ちゃん、優花ちゃんと私の名前を呼びながらぐずる雅治の頭を撫でてやれば、すりすりと頬を寄せてくる。がっちりと私の腰を掴んだまま、なあなあ、とこちらを不安げに見つめる様を、昔は可愛いとも思った。今じゃ、ちょっと溜め息の一つや二つつきながら、邪魔だよとか言いたくもなるというものだ。 「なあ」 「なぁに」 「昨日なんでブンちゃんと帰ったか教えて」 「……」 「教えてくれんと、ちゅーしちゃうナリ」 「や、」 答えを聞く前に私の唇に食らい付く雅治は、犬がじゃれつくように私の唇をはむはむと食んだり、べろりと舐めたりする。そのままドサリとベッドに押し倒されて、雅治が私に覆い被さったまま「なあなあ」と尚も答えを催促した。 「ブンちゃんと、チャリ二人乗りとか、俺が嫉妬深いの知ってるくせに。優花ちゃんは酷いのう」 「ちょ、っと…雅治」 「でも、今回のはさすがに本気で腹立ってるんじゃけど、どう?」 「え、あの、だからね、」 雅治の変なスイッチが入った。これはもう私にも止められない。私のカットソーの中にするりと手を入れながら、言ってくれるまでやめない、とか言い出す始末である。雅治、と声をかけた所で再び嵐のようなキスが降ってくる。おいちょっと待て、言わせる気とかないでしょこれ。ブラのホックなんかいつの間にか外されてて、胸に直に触れられると体がびくりと震えた。雅治の手、冷たい。 ふと雅治の瞳を見ると、先程までの可愛いわんちゃんみたいなうるうる目は見る影もなくなっていて、代わりに宿るのは猟犬というか、狼みたいな動物がその視界に獲物を捉えるような、鋭い目付き。 こうなると、雅治みたいにぐすぐすと泣き出すのは私の番になるのだ。 「……優花ちゃん?」 「うるさい死ね」 「!!し、死ねって人に言ったら駄目なんぜよ!」 「うっさいくたばれ雅治なんて嫌い大嫌い!」 げしげしと脚で雅治を蹴ってやると、雅治は上半身裸のままベッドの外へと放り出される。また泣きそうな顔をしながら、床に自主的に正座をし始めた。 「だ、だって、」 「だっても何もない。浮気じゃないって言ってんじゃん!誰がブンちゃんなんかと浮気するか!私だって浮気するなら相手選ぶわ!」 「そ、そこは浮気はせんとか、言ってくれるもんじゃ、ないんかの…」 「腰痛い喉痛い腕も痛い」 「すみませんでした」 雅治のホント馬鹿みたいな性欲に付き合わされて、私の体はガッタガタである。多分、今歩いたら生まれたての小鹿にもなれるね。力入らない、死にそう。雅治は私の手を握ったり頬を撫でながら、ごめん、ごめんと必死に謝る。ああ、こうやってると普通に可愛いのに。 「……私、別に浮気とか、してないから」 「ほんとに……?」 「ブンちゃんが私のチャリをパンクさせやがったから、家まで送らせてアイス奢らせただけ」 「まじ?」 「大マジ」 「なんで俺のこと、呼んでくれなかったんぜよ…」 優花ちゃんと二人乗りしたかったアイスぺろぺろしてる優花ちゃん見たかった!と駄々をこねだした雅治の頭を手を伸ばして叩いて「アンタが後輩ちゃんに告白されてたからでしょうが」と言ってやった。そう、どうしてその日に私と雅治が一緒に帰らなかったかというと、雅治が所謂お呼びだしを受けていたからである。すぐ帰る、すぐ帰るから待っとって!と涙目で言われたが、10分も待たされると流石に飽きてきた。ので、張本人のブンちゃんを召喚して、チャリに乗せてもらったというわけだ。 「だって、あの女の子しつこいしすごい怖かったから優花ちゃんに慰めてもらおうとしたのに、優花ちゃん先に帰っとるし、しかも、しかも…うわ、き」 「だから浮気じゃないって言ってるでしょうが」 ウッと涙ぐんだ雅治は、優花ちゃん優花ちゃんと再びベッドに潜り込んで私をぎゅうと抱き締めた。体中がバッキバキなのになんて男だ。少しは労れ、とばんばん背中を叩いていると、雅治が「お願いがあるんじゃけど」と私の顔を覗き込んでくる。仕方ないから、どんなお願い?と返してあげた。 「明日、俺と二人乗りして?アイスも、食べたい」 「は?」 「ブンちゃんずるい」 「ああ……はいはい」 優花ちゃん、好き。耳元で囁く雅治の声がくすぐったい。なんだか気恥ずかしくて返事は出来なかったけど、雅治は私の真っ赤になった耳をべろりと舐めあげて、嬉しそうに笑っていた。ああ、ホントにペット感覚だわ。 |