※前のお泊りの話は忘れて 雪は明日未明まで降り続ける模様で、交通機関の麻痺に警戒が必要です。 そんなニュースがテレビから流れてくるのを聞きながら、窓の外を見やれば暗くなった空から白い塊がひらひらと舞って地面を真っ白く染め上げていた。 「雅治のご家族、ちゃんと目的地着けてる? 大丈夫なの?」 「一人分の宿泊費が浮いたおかげで宿が綺麗で食事も豪華って姉貴から連絡がきとるぜよ……」 ほれ、と見せられたスマホには綺麗な旅館の玄関やら美味しそうで豪華な懐石料理が写っていて、おお、と思わず声が漏れた。 雅治に、家族が旅行に行って寂しいから泊まりに来てくれと誘われたのはつい昨日のことだ。家族が旅行、雅治以外誰もいない家、それは、つまりそれは。そんな条件が揃っていて期待するなと言う方が無理だろう。私の勘違い、先走りかと思って一応愛美にも相談してみたが「し、下着買いに行く!?」とぶっ飛んだ回答をくれたので私のこの期待は間違っていないのだろう。ちなみに下着は特に買いに行かなかった。 雅治の家には何度かお邪魔した事がある。彼はお姉さんと弟がいてお母様も専業主婦らしくいつ訪ねても誰かがいた。でも今日は雅治と私以外、今、家には誰もいなくてテレビでも着けていなければどうにも耐えられないのだ。雅治はというと別にいつもと変わらない様子で私が夕飯を準備しているのを愉しそうに見つめている。ふと目が合うと、何か手伝うことあるかの? とキッチンに立つ私のまわりをうろちょろし始めたので、テーブルの準備してとお願いしておいた。キッチンの上にある食器棚から白い深皿を二つ取り出した雅治がまだこちらを期待に満ちた瞳で見つめていて、思わず「なに」と苦笑しながら尋ねた。 「だってなんか今、夫婦みたいじゃろ」 「う、ま、まあ……」 こうやって優花ちゃんが食事を準備してくれて、それを俺が手伝って、なんか幸せと思って、と言われてしまえば一気に恥ずかしくなってきて、もー! と皿を落とさない程度の強さで背中を押した。おどけた様子で肩を抱かれてこめかみに口付けられる。ああ、やだもう、ずっとこんな調子じゃ心臓がもたなくなる! 夕食を終えてしばらくリビングでだらだらした後でお風呂も頂いてお姉さんのパジャマも貸してもらい、寒くないようにとリビングの暖房を効かせてくれているお陰で湯冷めすることなくぬくぬくといい気分である。ソファに座っていた雅治はこっちこっちと手招きをして私を床暖房まで効いているソファの下に座らせる。白いラグはふわふわとしていて心地良い。 雅治の大きな手にバスタオルを手渡せば、わしゃわしゃと優しく髪の毛の水分を拭き取ってくれる。タオルもすごくいいにおい、雅治の家のにおいだ。 「髪の毛さらさらふわふわじゃの、かわいい」 「かわいいってなに」 「優花ちゃんは全部かわいい」 髪の毛をドライヤーで乾かされながらなんだか恥ずかしいことを言われている気がする。ぶわっと身体の内から熱くなって、こんな顔雅治に見せられない。ぼとぼとに濡れていた髪の毛は、雅治が丁寧に梳かしてくれるお陰でどんどんとさらさらになって乾いていった。地肌や首元に触れる指先が気持ちいい。ぞくぞくする。小さく息を吐いてまた窓の外を見つめると、まだまだ雪は止む気配がないようだった。ドライヤーのスイッチが切られて最後にふわりと髪を撫でつけられる。お湯の温かさやドライヤーの熱でまだ頭がほわほわしていて、雅治の座るソファに腰掛けてこてんと凭れ掛かる。 肩をふわふわとやんわり撫でられると、するりと指先が首へ、顎へと移動していってゆっくりと口付けられる。手を伸ばせば指を絡められてぎゅうと握り締められる。あつい、あつくて堪らない。 お姫様抱っこはどうしても嫌だと私が渋った結果普通に抱っこをされて雅治の部屋まで運ばれることになったが、これはこれで死ぬほど恥ずかしい。正面から抱きつくような形で抱き上げられていて、なんだか、なんだかこれはとてもえっちなのでは……? 雅治の心臓もとくとくと速く、緊張しているのは私だけじゃないんだなと知れただけでも良しとすべきか。部屋への階段を上がる間、二人ともこんなに密着しているにもかかわらず終始無言で。心臓が口から出そうなくらいに緊張する。 ゆっくりと降ろされたベッドにぎし、と大きく音を立てて身体が沈み込んでいく。その上に二人分の体重がのっかって、ベッドは更に大きく鳴いた。まさはる、と声にならない声で彼の名前を呼んだ。雪のせいで月光も陰り、部屋の中は薄暗い。それでも雅治の顔はよく見えて、興奮を隠しきれない様子で私の名前を呼びながらもう一度口付けられた。 するりとパジャマの中に入ってくる体温の低い手に、ひっと声が漏れる。 「ま、待って、自分で脱ぐから……」 「んーん、俺が脱がしたい」 「やだ、はずかしいからぁ」 そう言っては見るものの雅治は器用に片手でボタンを外していってしまう。なんでそんなになれてるの、と恨み言を呟けばとっても意外そうな顔をして「全部、優花ちゃんが初めてじゃよ」と笑ってみせる。 ほんとかよ、というのは口にしないことにした。雅治は嘘はつかない子だ。それに、こんな場でそういった言い合いをするのもなんだか色気がない。 下着はそのままに肌をゆうるりと撫でられていると、背中から何かがぞわぞわと這い上がってくるような感覚がする。首から滑って鎖骨、腕、お腹を撫でるとその手が背中へと回る。浮かして、と掠れた声が乞うままに背中を浮かせると下着が取り払われた。まって、と制するが既に遅く、胸が少し冷たい空気に晒される。あまり胸に自信がある方ではないから、凝視されるといたたまれなくなってしまう。そんなに見ないで、と胸の前で手をクロスしてもいとも容易く腕を掴まれて「ちゃんと見せて」と頬にキスを落とされてからじっくりと眺められる羞恥に耐えきれない。 胸の真ん中にちゅ、ちゅと何度かキスを落とされた後で、雅治は着ていたシャツをがばっと脱いでベッドの脇へと無造作に落とした。雅治の裸を見るのはこれが初めてだ。付き合い始めたのが秋だったせいでプールだとか海だとかをまだ経験していないのである。ああ、もっと早く告白して耐性をつけていれば良かったのかな、とか訳のわからない事を考えている内に脚を小さく開かされ、その間に雅治の身体が入ってくる。頭が沸騰しそうだった。 脱がしていい? と尋ねられたのは唯一私の身体を隠していたショーツのことだ。声も出せずに、頷きをひとつ返す。腰の辺りから下へ滑った指が、ショーツの上からお尻の形をなぞるようにして、それからクロッチ部分をすりすりと擦っていくものだから思わず肩が跳ねた。反応を見ながら指の腹でやわく圧迫するみたいに敏感なところを触られて、息が荒くなる。 「あ、や、それ……」 「ん、かわええのう……」 蕩けるような声に、心臓が鷲掴みにされる。自分でもろくに触ったことないところを雅治の指が何度も触れて、その度に身体にびりびりと刺激が走っていく。きもちい? と聞かれて何と答えて良いかも分からず戸惑う私に、きもちいって聞かせてと強請る甘い声に従うがまま、求められた言葉を繰り返す。快楽から逃れるように脚を閉じようとした時、不意に太腿に硬いものが当たる。それが大きくなった雅治のものだと気が付くまでしばらくかかった。ジャージ越しにも分かるくらい膨らんで、痛いくらいに張り詰めていた。なんとなくばつの悪そうな顔をする雅治の手に指を絡めて、期待を込めて問い掛ける。 「……私でそんなに興奮してくれてるの?」 「そりゃ……だって優花ちゃんがかわええから……」 ちゅ、と耳に口付けられると共に興奮の滲んだ吐息が吹き込まれる。それが可愛くて仕方がなくって、ぎゅうと雅治を固く抱き締める。キスを交わしながら剥ぎ取られていくショーツもベッド脇へと放られてしまった。つう、と太腿を伝って内腿をなぞる指が擽ったいのにどこか気持ちが良くて、吐いた息と共に漏れた声が裏返る。さっきまでショーツ越しに押されていたところへ、雅治の指が直に触れた。耳を塞ぎたくなるような粘着質な音が聞こえる。探るように指が一本、中へと入ってくる。ゆっくりと気遣いながら。でも、暴くように、どんどん奥を目指して。まだ気持ちよく感じるわけではないけれど、痛くはない。不思議な感覚だ。慣らすようにして入り口を、奥を、ゆるゆると擦られる。 「あったか……」 「ばか、そんなこと、い、いわないで……」 「ふふ、汗かいとるのう」 じっとりと汗をかいていたらしい内腿にちゅ、と口付けを落とされると同時に指がもう一本増やされて、うあ、なんて情けない声をあげてしまった。圧迫感に息が一瞬止まる感覚を覚えていると、すり、と甘えるみたいに頬を寄せられる。自分だってもういっぱいっぱいだろうにこんなにも気遣ってくれるのが幸せで、寄せられた頬に口付けた。ぐちぐちと指を動かされる度にお腹の下にずくりと熱が溜まっていくみたいだ。部屋が暗くてよかった。きっと酷い顔をしている。どんどんと濡れてくるそこはしばらくすると水音が大きくなってきて、これが受け入れる準備というものか、とぼんやり考えた。 これ以上雅治を我慢させるのも申し訳なくて、精一杯の勇気を出して「きて」と抱き締める。口付けられながら下を寛げる雅治を直視できなくて目を逸らしはすれど、お腹につきそうなくらいに大きくなっているものはいやでも視界に入ってきてしまう。 指を入れるのも一苦労のこんな場所に、どうやって雅治のあんなものが入るというのか。人体神秘過ぎないか? 「雅治……」 「……痛くせんから」 固くなる私に苦笑する雅治はサイドボードから袋を取り出して暗闇の中、見辛そうに開封している。いつの間にそんなもの用意してたんだ。枕を手繰り寄せてぎゅうと抱き締めると雅治のにおいがした。期待と恐怖が入り混じって、それでもやっぱり愛おしさで胸がいっぱいに満たされている。 「痛くしてもいいから、沢山気持ちよくして……」 「っ、はあ〜もう、優花ちゃん……」 「なに! だって、っ、あ、」 ぐっと脚を開かされて、雅治が中に入ってくる。息ができない。自然と涙が溢れてきて目をぎゅっと瞑れば目尻からつうと流れていく。痛くはない。けど、苦しい。身体が股から真っ二つに裂けそうだ。痛い? と問い掛けてくる雅治に一生懸命に抱きついて首を横に振った。永遠のように長く感じた時間の後で、ぜんぶはいった、と幼さの滲む声が耳元で聞こえて少しだけ気が抜けた。 「はいった……?」 「ん……優花ちゃんのここに、ぜんぶ」 お腹をゆうるりと撫でられて肌が粟立つ。すごい、人体すごい。女体すごい。雅治の手の上に手のひらを重ねて、ほんとだね、と微笑む。 「……動きたい」 「ふふ……いいよ」 きらきらと光る銀色の髪を耳にかけてあげて、そのまま首の後ろに腕を回した。ゆるゆると動き始める雅治に合わせて、内臓が揺さぶられる。あ、あ、と意味のない母音が口から出るのを雅治の唇が飲み込んで、すべて吸い上げられるようだった。肌と肌が触れ合う感覚が気持ち良い。何度も囁かれる愛のことばが、どうしようもないくらい身体の中心をぐずぐずに溶かしていく。内臓を押し上げられる感覚が心地よいはずもないのに、私の口からは衝動的にきもちい、という声が出て雅治を更に興奮させる。この行為自体にまだ意味だとか気持ち良さだとかは見出だせないけれど、好きな人と繋がっているというのは想像を絶するくらいに幸福感で満たされるのだ。生まれて初めて知った。教えてくれたのが雅治で良かった。あつくてたまらない。 脚を、唇が滑っていく。肩に両脚をかけられるとまた奥深くを貫かれて、無意識にかぶりを振った。 「やだこれ、ふかい、」 「優花ちゃん……」 「ふ、ふかいってばぁ」 奥を突かれる感覚に背中が仰け反る。その衝撃から逃れようと逃げる腰をぐいと引き寄せられて、小さくぬちぬちと動かれると途端に身体から力が抜けていく。何も考えられなくなって、ただひたすらに幸せで、這い寄るように快楽が僅かに波の如く全身へと広がっていく。まさはる、まさはる、と夢中で呼ぶ声に応えて、雅治が舌を絡めてくれた。低く息を吐いて、出そうじゃ、と余裕のない声がまるで泣きそうに私に乞うてくる。 「いいよ、ぜんぶ、ぜんぶちょうだい……」 「うあ、すき、っ、すき、優花ちゃん、優花ちゃん……」 なんだこのかわいい生き物は。ああもう愛おしい。すき。かわいい。だいすき。ぱちん、と何かが弾けるように頭が白いもやもやに包まれたのと同時に、私を抱き締める雅治の身体が二、三度大きく震えた。しばらく無言のまま見つめあって、汗を吸って変にまとまった前髪を撫で付ける。それからもう一度口付けて、すき、と囁くと雅治はぎゅううと私の身体を抱き寄せて俺の方がすき、と肩に額を擦り付けた。火照る身体の熱はまだ冷めやらぬようだけれど、雅治の肩まで布団をかけてあげて「おいで」と腕を広げる。すっぽりと胸に収まる体温と、ふわふわの銀糸が愛おしい。ああ、人ってこうやって恋に落ちた後も更に深みへとはまっていくんだなぁとしみじみ思う。雪はまだ止みそうもなくて、寒々しい外の風景とは裏腹に、手のひらまで真っ赤に染まった身体はまだ愛おしい体温を求めていた。 |