※ただのギャグ
今朝、怒られたらすぐ泣いたりキレたりする社会人が多いとかいうニュースがやっていた。おじいちゃんは最近の若いモンは本当になっとらん、とか言ってたけど、私は昔の事情とかよく分からないので、ふーんと流していたのだ。昔の人はどうしてそんなに我慢強かったんだろう。
話を本題に戻すが、怒られて泣いたりキレたりする社会人がいるなら、一回皆、精市に怒られてみればいいんだ。と私は思うわけです。
「お前なんで俺が話してるのに、ボケっとしてんの?そんなんだからテストの点も取れなかったんじゃないの?」
「……返す言葉もないですまじで」
「赤也も、頭下げてれば済む問題だと思ってたら大間違いだよ」
「……平均まで、あと3点だったっス」
「は?3点?逆になんでその3点ぽっちが取れなかったのか聞いてもいい?」
テスト明けのテニス部の部室は、地獄に等しい。別にこれ、大袈裟な言い方じゃない。
平均点のとれない教科のあった部員は皆こうして、部長である精市の前に集められてお説教なのである。その隣で弦一郎も吠える。蓮二がネチネチ言う。本当に地獄である。これが嫌で他の部員は死ぬ気で頑張って平均点を取ったらしい。羨ましい。皆、いつも必死にテニスを頑張ってるだけあって、底力が半端ない。マネージャーの私にも分けてください。
しかし、こんな事ならもっと頑張ってれば良かった、ホントに数週間前の私は爆発すべきだと思うわ切実に。
「で、どっちが合計点低いんだっけ?」
「赤也です」
「ちょ、ひな先輩!」
「そうだね、赤也だね」
この精市の優しい声色である。ごめんなさい精市様次からは頑張ります。と、毎回思うのだがそれが結果に結び付かない。どうしてなの。テレビのせいなの、漫画のせいなの、それとも電話やメールのせいなの。
「ひな、どうして国語の点が取れない。日本語だぞ?母国語のテストで、どうやったらあんな点数がとれる?」
「どうやったらって……こうやったらだよ」
「ひな煩い」
弦一郎の問いに素直に答えたのに、精市に叱られた。蓮二は赤也を説教していた。私も蓮二がいい、赤也羨ましい。蓮二、ネチネチ煩いけどあんまり怖くないんだもん。
「次から頑張る!ホントに頑張る!」
「前も聞いたわ!」
「じゃあその言葉信じていい?」
「うん信じて!」
「はい」
勢い良く答えた私に渡された紙切れ。折り畳んであるそれを、なんぞ?と開いて、絶句した。追試のお知らせだった。頑張るんだよね?と精市がにっこり笑った。はい、と言うしかなかった。
「漢文わからん」
「考えもしないで分からないなんていうから、貴方は馬鹿なんですよ」
「おい柳生貴様」
帰りにファミレスに寄って、勉強会を開いた。勉強会と言う名の私の精神を削る会である。ブン太はパフェとかケーキ食ってるだけで役に立たないし、いつも私を甘やかしてくれる仁王やジャッカルは、赤也の英語を教えていた。私の周りにいるのは、精市・弦一郎・柳生・ブン太である。なにこのメンバーまじ最悪赤也ホントに羨ましい。のに、ひいひい聞こえてくるということは、向こうも向こうできついのだろうか。いや、確実にこっちよりはマシだろうけど。
「大体、私古代中国とか行く予定ないんで漢文は読めなくてもいいし、平安時代行く予定もないので古典もいらないです」
「おい、今赤也が同じようなニュアンスで英語いらないって言ってたぞ」
「なにそれ赤也とかぶったうわ最悪、わたしまで馬鹿っぽい」
「お前は元から馬鹿っぽいよ」
「ひな負けるな」
ジャッカルは優しく励ましてくれるのに、精市ときたらなんなのまじで。ちょっと頭良くてスポーツできてカッコイイからって調子に……のるわなそりゃ。まあそんな事は置いておいて、本当に漢文が分からない。
「なんで返り点?レ点?とか一とか二とかあんの。別にさあ、そのまま素直に並べたらよくない?昔の人はなんなの?バラバラにして読む俺マジかっけぇとか思ってたの?」
「それはだな、」
「いや解説は求めてない」
面倒な事になりそうなので弦一郎の言葉を遮れば、ちょっとしょぼんとしてた。でも弦一郎の説明って長い上に詰まらないんだもん。
渡された問題集は、たった5ページしか進んでいない。どうして追試は明日なんだろう。どうして勉強する時間をくれないの、先生ひどい。
「ひな、嘆いてる暇があれば少しでも頭に入れなよ」
「はい」
「漢文はもう、気力で読み取るのが一番ですね。で、古典ですが…」
柳生がさらさらと簡単な表を作って、これで覚えなさいと言ってくれた。すごく綺麗な字である。柳生は、なんだかんだと言うけど最終的にこうやって、ちゃんとどうにかしようとしてくれるから、好きだ。あと10ページ終わったら、お前の好きなものを頼んでやろう、と滅多にない甘やかしの言葉を口にする弦一郎も、私の手が止まったらすぐに解説を入れてくれる精市も、本当はいい奴なのだ。みあパフェ食ってるブン太はこの際別として。
この苦しい時にちょっと幸せを感じてしまう。いい仲間を持ったな、とか口に出してみたら、いいから早くやれ、と精市に頭を叩かれた。はい、さっきの言葉なし。
こうして猛勉強のお陰で、私は無事追試で62点という高得点をおさめる事ができた。あれだけ勉強して62点って、と笑う皆にはとりあえずお前らまとめて爆発しろ!と一喝しておいた。
余談だが、赤也は94点だったらしい。なにそれ羨ましい。
まあ私達二人とも、次の定期テストでは元通りになっていて、精市に真顔で死ねとか言われて、ちょっと、いやホントにガチで、怖かったのでした。