「殺したくなかった」の続き。





好きな女が失恋した。
不謹慎やけど、チャンスやとも思ったし、正直安心してる自分がおった。ここで慰めたらあいつは少しでも俺に関心を持ってくれるやろか。いや、いつもにこにこしてる奴やし、そこまで泣いてないんかもしれん。次がある、とか思ってるかもしれんし。
パンを4つ買ってから、屋上へと急ぐ。嫌な事あったり休みたい時には、あいつも俺も必ず屋上へ行く習性みたいなもんがあった。そこでいっつもだべって、菓子食って、なんかしょーもないゲームして。正直ちょっとは両想いかもしれんっていう自惚れがあったから、あいつが謙也くんの事好きって知った時は、すごい落ち込んだ。でも相変わらずひなはすごい可愛くて、いつも俺の隣で笑ってて、じゃあこの関係のままでええやと、諦めた。

―――……けど、今こうやって目の前で、他の男なんかのためにびーびー泣いてるひなを見て、すごいムカついた。なんなん、俺の気持ちも知らんと自分ばっかり可哀想やみたいな感じで、腹立つ。しかも、なに謙也くんの彼女褒め讃えとんねん、アホちゃうん。俺なんか、お前が謙也くんの事好きやって知ってから、謙也くんの嫌な所駄目な所、いっぱい探したわ。なに、お前聖人か何かなん。それともただのアホなん。どっちにしろ、すごい腹立った。


「ひか、る?」
「……なに」
「そろそろ離してくれると、嬉しい、かも」

しばらく泣いた後、ひなは至って普通の声に戻って俺の学ランをくいくい引っ張る。俺が抱き締めんのやめたら、ばさりって学ランが床に落ちて、ひなが慌ててそれを拾いあげた。

「ごめ、私の涙と鼻水……」
「……お前、まだ謙也くんの事好きなん」
「えっ」

そう言うとひなは少しだけ悲しそうな顔をして、諦めれるよう頑張る、と笑った。それがまた下手くそな笑い方で、俺はまた苛立ちを隠せずにいた。

「諦めれるん」
「頑張る」
「……じゃあ、」

俺の事好きになって。

―――真剣に、言うたつもりやのに。
ひなは笑い崩れて、俺はポカンと呆気にとられる。なにこれ、なんなん。こいつ何わろてるん。笑い声、うっさいし。

「はは、あははっ……うっ、笑いすぎて吐きそう」
「きたなっ」
「あはは、は、ふ……ふう、ええと、ごめん笑って」
「……うっさい」

頭を叩いても、ひなはヘラヘラ笑ってる。なにこいつ。

「……光、私、諦めれるよう頑張る」
「…………おん」
「やから、謙也先輩のこと諦めて、私の中で整理がついたら、光の事好きやって言わせて」

今すぐには無理やけど、なんて笑うひなに「俺、そんな気ィ長くないけど」と言えば知ってるよと返される。

「光と一番仲ええ女子は私やもん。何でも知っとる」
「……」
「だから、光も知っとるやろ?私が、立ち直り早い事」

ふわり、と笑うひなはやっぱり謙也くんの彼女とは比べもんにならんくらい可愛くて、これは好きになった弱みとか贔屓目なんやろうか。なんて考えてみる。早く、早く忘れて。全部忘れて頭の中から捨て去って、俺の事、好きって言えやアホ。





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