※謙也に失恋
知らん間に謙也先輩に彼女ができとった。可愛い人やった。すごい可愛くて、ちっちゃくて、おまけに性格までいい。人間やねんからどっか嫌な所あるやろ、だなんて彼女を探る私の方がよっぽど嫌な人間で、なんかもう、泣きたくなった。辛かった。生まれて初めての、失恋やった。こんなに涙って出るんや、と少し乾きかけた屋上のコンクリートの床をつうと指でなぞりながら、目を閉じる。涙で濡れた頬を風がくすぐっていくのが気持ち良くて、しばらく目を瞑ったままで風に吹かれてると、入口からガタンっておっきな音がした。
びっくりして目を見開いた私に、入口から気まずそうに出てきたのは同じクラスの光やった。泣いてたって知られたくなくて、私はふいと顔を逸らす。
「……食う?」
「…………食べる」
光が放り投げた桜餅アンパンを受け取って、袋を開ける。光は私とちょっと離れた所に座ってウインナーカレーパンを食べ出した。あ、そっちも美味しそうやな。
無言のまま桜餅アンパンを頬張ってたらまた泣けてきて、私は口を動かしながらまたぽろぽろ涙を溢していた。光は何も言わん代わりに、食べんのをやめて私の方をじいと見つめている。
「……ハンカチないん」
「ないけど」
「女子のくせに」
「うっさい」
謙也先輩の彼女が、お茶溢した謙也先輩の制服を可愛いピンクのハンカチで拭いてあげてた事を思い出して、それが一々私の胸をチクチク突いてくる。謙也先輩だけやなくて、男の子やったら女の子らしくてふわふわした女の子に目を惹かれるもんなんやなぁ。悔しいと言うよりも、あの二人はすっごいお似合いやから、私にはどうもできひん。惨めに泣くしかない。それがまた、辛かった。
「謙也先輩、彼女できたん知ってる?」
「知ってるけど。自慢ばっかりうっといっちゅーねん。あの彼女、なんかふわふわゆるゆるしてて、俺はあんま好かんし、」
「いい人やよ」
光の言葉を遮って、私はゆっくり顔をあげる。光とちゃんと目を合わせれば、光は私の泣き顔に驚いたように目を見開いて、それから狼狽えた表情をする。光のこんな顔、初めて見た。
「可愛いし、いい人。嫌なとこなんか一つもない。私、必死に探したもん。あの人の嫌なとこ、探した。どんなに探しても見つからんかった。謙也先輩、が選んだだけ、あるやんなぁ、」
「……うっさい」
突然目の前が真っ暗になったと思えば、なんか知らんけど光に思いっきり抱き締められてた。しかも光の学ランを頭から被らされてるから、息苦しいしアンパン落ちるし、最悪。ぼろぼろ涙が後から後から零れてきて、変な声まで漏れてくる。鼻の奥がツーンと痛くなって、苦しい。
「黙って泣いとけ。いらん事言わんでええねん」
ぎゅうってされて、身動きができんくなる。やめてや、って言おうとしたのに代わりに私の口から漏れてきたのは、みっともない泣き声やった。光がまた痛い程にぎゅうと抱き締めてきたのが、分かった。