先輩好き、かわいい、愛してる。そんな砂でも吐きたくなるような言葉を囁きながら、私の腰にまとわりついている赤也は、飽きもせずに頬やら髪の毛やらにちゅっちゅとキスを落としていく。最初の頃は顔を赤くしてやめてよ!だとか恥ずかしいよ!だとか叫んでいた私も、今ではこの通りである。人間、適応できる生き物だ。
「お前さん達外でやりんしゃい」
「部室の中でイチャつくなまじ暑苦しい」
「僻みっスか先輩達」
「うるせぇくたばれ」
ブン太と仁王、それから赤也のこんなやりとりも慣れたものである。こいつらも最初の内は面白がって冷やかしていたが、時が経つに連れてうざったらしくなってきたらしい。赤也は私から離れてブン太とじゃれつき(と言う名の後輩イジメ)始めたので、私はようやく体が軽くなる。今の内に全部書いてしまおう。
「ひなせんぱ〜い!丸井先輩と仁王先輩がイジメてくるっス!」
「はいはい」
「彼女に見捨てられるとは情けねーな赤也!」
「マジギブ!」
後ろでじたばたガタガタ煩いが、これにも慣れた。やっと最後まで記入し終わった部誌を閉じて、赤也!と叫べばその瞬間犬のごとくダダッと私の元へ駆け寄ってくる。ちょっと飼い主になった気分である。
「終わった、帰るよ」
「はい!」
元気よく返事をした赤也は、それじゃ先輩方、と振り向き様にニヤリと笑ってまたブン太に蹴られていた。見事な蹴りだった。ブン太って意外と身軽だよねと言えば「意外とは余計だろぃ」と私まで膝を軽く蹴られた。これは痛い。弁慶の泣き所というやつだ。女に暴力振るうかこいつ。
「あっ!ひな先輩!丸井先輩ひっでー!何するんスか!」
「うるせーバカップル早く帰れ」
ブン太に追い出されるようにして部室を出て、私達は愚痴を零しながら帰路に着く。
「あいつあんなんだから彼女できないんだよ!」
「そうっスよね!」
「明日からブン太の事をブタと呼びます」
「なにそれひな先輩マジ勇者」
他愛もない話をしていると、不意に赤也の手が私の掌に触れる。赤也は私の小指をきゅ、と握って「手ェ繋ぎたいんスけど」と私の顔色を伺う仕草を見せる。好き勝手に抱き着いたり頬にキスをしたりしてくる割には、手を繋ぐ時だけはこうして許可を求めてくる。付き合い始めから変わらない、赤也の変な癖だ。いいよ、と言って赤也の手を握り返せば、赤也はすごく笑顔になって先輩大好き!かわいい!とまたいつもの調子で叫び出す。
はいはい、と流す私に対して、先輩は?なんて尋ねてくるものだから、私もだよ、と答えてあげればまた赤也の好き好き攻撃が始まるのだ。聞き流しながらも、なんだか心がじわじわと温かくなっていくようで、何かが破裂しそうになる。
「赤也!」
「は、」
赤也の言葉を飲み込むように、その唇に軽くキスを落とす。対する赤也はポカンとしたまま目を見開いて、それから何でか分からないけど半泣きになりながら、ひな先輩、ひな先輩と抱き着いてきた。絞め殺されそうになった。
と、いう話を翌朝精市にしたら、笑顔で爆発ろと言われてちょっと怖かったです。まる。
「もっとちゃんと話聞いてよね!まだ沢山あるの!」
「お前らホントにいい加減にして腹立つってレベルじゃない」