お風呂からあがって携帯を見てみれば、白石から着信とメールが一件ずつ入っていて、私の心臓は分かりやすいくらい嬉しさに高鳴る。白石は選抜合宿だか何だかに行ってるらしくて、それに行く前に遊びに行くわけちゃうねんからメールはそんなにできひんで、と言っていた通り、一日に一回しかメールをくれない。合宿前は、いつも教室で喋ったりどっちかが寝るまで電話してたから、こんなに白石と離れるのは初めてかもしれない。寂しいな、と正直に思う。体の中に白石の熱が足りない、心に穴がぽっかりと空いたようだった。
早速メールを開いてみれば、暇な時間に電話してきてや、なんて書いてあるものだから私は急いで通話ボタンを押した。声を聞くのも、大分久しぶりじゃないだろうか。手が少し、震えた。

『もしもし?』
「……白石?」
『おん、どした?ひな』

1週間とちょっと離れてるだけなのにこんなに寂しいなんて。それなのに声を聞いただけで心が満たされていくような、不思議な感覚。自然と口元がにやけた。

「白石が電話してこいって言うたんやろ」
『はは、そやった』
「……元気なん?」

そう問い掛ければ、白石は元気やで、と電話越しに笑った。早く逢いたい、とかいつ帰って来るの、とか、聞きたい事は沢山あったけれども、とにかく白石の声が聞きたくてもっと喋って、なんてよくわからない注文をつける。

『なんやそれ』
「白石の声、充電してるの」

白石が、電話の向こうで噴き出した。どうしたの白石くん、とか聞こえてくる。えっなに、友達といるの。続いてまた違う声が誰と電話してるの?なんて近付いてくるものだから、思わず黙り込んでしまった。なんか、気まずい。しかも、知らない人の声やった。あれ、謙也くんとは一緒じゃないんやろか。
携帯片手に固まってしまった私は、どうする事も出来ずにベッドに正座という変な体勢のまま、向こうの状況を伺っていた。

『もしかして、彼女かな?』
『後から話すから、ちょっと退いてくれへん?……ひな?』
「あ、な、なに」
『やっぱり彼女か』
『そう彼女。……ひな、まだ時間大丈夫か?ごめんな邪魔が入ってもうて』

えっ、と思わず声が漏れた。冷やかしの言葉が耳に入ってくるのが恥ずかしくて堪らないのに、白石はと言えば至って普通の態度で会話を続けてくる。別に、よう話すけど彼女とかじゃ、ないやん。どういうことなんやろ、ええ?否定するんも面倒やから、適当にあしらっただけなんかな。

「し、白石…?」
『早く逢いたいなぁ』
「……えっ、う、うん」
『こんなんじゃ充電の内にも入らんわ』

白石の声がやけに遠くに聞こえた。うわあ、やだ。私、顔真っ赤になってる。さっきはさらりと言えた充電、なんて言葉が、さっきの彼女発言と相俟ってなんだかくすぐったいように感じる。

『帰ったら、抱き締めてもええかな』

冷やかしの声が、より一層大きくなった。やだホントに白石、なんなの。しばらく電話しない内に、何があったの。携帯をぎゅうと握り締めながら、早く帰ってこい、馬鹿!と叫んでやった。電話越しに白石が笑う。ああもう、告白も無しに抱き締めさせてあげるほど、私は安い女じゃないんだからね!ちゃんと、好きだって言いなさいよ、絶対。




ちょっと抱き締めさせてください






なんぞこれ





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