幸村くんおめでとうぺろぺろ | ナノ





「絶対ここから動いちゃいけないよ。ボールに当たったら怪我するからね。約束守れる?」
「守るー!あ、ハトだ!」
「……ななし」

早速ベンチから走りだそうとするななしの体を抱き上げて、もう一度ベンチへと座らせる。舌の根も乾かぬ内に、せわしない。約束守れないなら母さんに迎えに来てもらうよ、ときつめの口調で叱ると、ななしはそれはやだぁ、と首を横に振った。
何故ななしが学校に来て部活を見学しているかといえば、話は数時間前に遡る。朝食を食べ終えて部活の準備をしていると、ななしがぬいぐるみを抱きかかえて「精市ちゃん遊んでぇ!」と部屋に入ってきたのだ。制服姿の俺を見て、どこかいくの?と首を傾げるななしに説明すれば、私もいく!と言い出して聞かない。仕方なく、うろちょろしない、俺の言うことはしっかりと聞くという約束を交わして連れてきたわけだけども、ななしの性格を考えればななしがあちこち走り回って騒がないはずがなかったのである。

「精市、部室に置いてある備品の事だが…」

蓮二はかがんでななしにしっかりと注意する俺を見て、ふっと柔らかく笑うと「後にしよう」と持っていたファイルを閉じて同じようにしゃがみ込んでななしと目線をあわせる。

「噂のななしか」
「うわさ?」
「ああ、気にしないでいい。俺は柳蓮二だ、よろしく」
「よろしく〜」

差し出された蓮二の手を両手でぎゅうと握り、ななしはにこにこと笑う。その様子を数歩離れた所で伺っていた真田を呼び寄せると、ななしはぱあっと顔を明るくした。

「ぼうしのひとだ!」
「ぼ、帽子?」
「精市ちゃんの部屋のね、写真みたの!」

ななしは人の顔を覚えるのは苦手らしいが、帽子をかぶっていた真田の事はよく覚えていたらしい。いつも俺の部屋に入っては興味深そうに写真を眺めているものだから、親近感のようなものもあるんだろう。
真田は男系家族だから女子にどう接していいか分からないとでもいうように、戸惑いつつもこんにちは、と表情を弛めてななしに話し掛けた。ななしはそれが嬉しかったのか「こんにちは!」と元気良く挨拶を返す。その声に反応して他の部員が寄ってきたので、これでは練習にならないとななしに先程繰り返し言い聞かせた注意をもう一度だけ口にして練習に戻ろうとした。
そこに入れ替わるように現れたのがブン太だ。ななしはブン太を見るなりぱあと顔を明るくして「すごーい!」と手を叩いた。

「髪の毛まっかっか!」
「かっこいいだろぃ?」
「うんかっこいい!いちごみたい!」
「こらブン太、練習に戻れよ」
「もう少し話したら行くって。名前なんていうんだ?」
「ななし〜!」

弟達の世話で小さな子供には慣れているらしいブン太は、いとも簡単にななしになつかれていた。すぐにブンちゃん!と抱きつくななしに、おー元気だな、と目を細めて抱き上げる。高い高いをするブン太に「私もう小学生だよ」と言いながらもななしは愉しげに笑っていた。それを横から仁王が奪うように抱きかかえて、俺の方が高いじゃろ〜とななしを更に上へと持ち上げる。きゃっきゃと笑うななしを振り返りつつちらりと見やり、あんまり甘やかしてないで練習に戻りなよ、と言えばノルマはこなすだのすぐ行くからだの、皆して返事がおざなりだ。
こうやって俺以外になつくななしはあんまり見た事がないので、すごく新鮮でなんだか少しだけ、変な感じがする。

「心配性な幸村なんて、初めて見たぜ」
「目を離すと転んだり、階段から落ちたりする子だから心配になるのも仕方ないだろ」
「いい父親になれるな」

可笑しそうに笑うジャッカルに、ななしの世話をすれば分かるよと返してやる。今だって、ブン太に貰った飴を地面に落として嘆く声が後ろから聞こえてきて、だからいつも飴の包みを開ける時はゆっくりって言ってるのに、と溜め息をつきたくなるのだ。ジャッカルの言う通り、ななしといると本当に父性みたいなものが嫌でも培われる。手のかかる子程可愛いとは、よく言ったものだけれども。










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