(※真面目テイストで書いてたのに読み返したらなんかすごい笑い込み上げてきたのでギャグという扱いでお願いします)
(※ツッコミ入れたくなると思いますがスルーしてやってください彼らゆとりなんで)





「…どうしよう」

卓上カレンダーとにらめっこしながら、私はうーんうーんと一人唸っていた。見つめているのは二ヶ月前の月で、16日のところにぐるぐるとマルがついている。最後に生理がきた日のマークだ。そこからもう丸二ヶ月、生理がきてない。体調でも悪いのかなぁ、と溜め息をついてカレンダーを置けば、下からママが「遅れるわよ」と声をかける。もう出る、と返事をしてからバッグを肩にかけた。なんだか、最近体調が悪い。




「でね、この前もご飯中にちょっとだけ吐いちゃって…パパがすっごく心配してたの」

駅で待ち合わせしていたはーちゃんに、電車を待ちながら生理の事もひっくるめて話せば、途端にはーちゃんは難しい顔をする。私はその隣で単語帳を捲り、模試やだ…と呟いていたが「模試どころじゃないでしょ」と真剣な声が私の作業を中断した。

「ど、どういう…?」
「ねえすっぱいものとか食べたくなったりしない?」「…ああ、うん。好きだよ」
「最近特に?」

暑いからさっぱりしたものが食べたい、っていうのがあるから間違ってはいない。こくりと頷けば、やっぱり!とはーちゃんは悲鳴のような声をあげた。一体なんなの、もしかして私死んじゃうの?と恐る恐る聞いてみれば、はーちゃんは重々しく首を横に振る。

「ひな。あんたそれ、妊娠してるかもしれないよ」
「え…ええ…ええええ!?」

妊娠、妊娠って私ママになるの、男の子なの女の子なの、大学生になる気満々だったのに!ぐるぐると様々な事が駆け巡る中、慌ててはーちゃんが「あくまでも仮説だよ」と付け加えたけど、私は心臓がどくどくと煩いのを止める事も出来ずに立ち尽くしていた。
非現実的なようで、有り得ない話でもない。なんだかもう、お腹を撫でる事すら少し怖かった。




「私、妊娠したかもしれないんだって」

お弁当の時間に思い切って蓮二くんにそう伝えれば、蓮二くんはぽとりと金平ごぼうを机に落とした。あっ、もったいない!といつもの私なら騒ぐ所だけども、今日は話題が話題である。蓮二くんはその体勢で固まったまましばらく黙り込んでいたかと思えば、妊娠…?とただ一言呟いた。二人きりの空き教室に、沈黙が流れる。するといきなり蓮二くんは立ち上がって、すたすたと私の方へと歩み寄り、ガッと両肩を押さえ付けるように掴んだ。心臓が口から飛び出るかと思った。

「…最後に生理が来たのは?」
「に、二ヶ月前、だけど」
「検査は?」
「…えっと、してない。分かんない。かもしれない、っていうだけ…」

そう言えば、いくらか安心したような顔をして驚かせないでくれ、と溜め息をつく。そのままじいと見つめていると、不安なのは俺よりお前の方か、と苦笑を溢して私の頭をふわりと撫でた。不安、そう、何より不安が勝っているのかもしれない。俯く私の垂れた髪を耳にかけながら、蓮二くんは「いや、しかし、可能性が全くないわけではないのか…」と小さく呟く。
私を安心させようとしているのか、大きな手はずっと私の頭を撫でたままだ。朝から募っていた不安が解けていくようで、私は知らず知らずの内にぽたぽた涙を溢していた。

「ひな…?」
「ど、どうしよう、ごめんね…なんか泣けてきちゃって」

妊娠って、ドラマや漫画の中だけの出来事のような気がして、いまいち実感が湧かない。喜べばいいのか悲しめばいいのか、それとも。ぐちゃぐちゃになった感情が処理出来ずに、私は泣きたくないのに更にぽろぽろみっともなく涙を溢す。蓮二くんが私に目線を合わせるようにしゃがみこんで、優しい声で落ち着けと諭した。

「とにかく、検査してみない事にはどうにも出来ないだろう」
「でも、でも、もし…」
「もし本当に妊娠しているなら、責任を取る覚悟はできている」

ぎゅうと抱き締められて、力強い声が耳元で誓いの言葉を紡ぐ。抱き締め返そうと手を伸ばした所で、私は下半身に違和感を感じた。慣れた感覚だ。これは、もしかして。もしかすると。

ちょっとごめん!と蓮二くんを押し退けて脱兎の如く空き教室から飛び出してトイレへ駆け込めば、案の定、ショーツがうっすらと血に染まっていた。あ、どうしようナプキンがない、と思う前に生理がようやく来た嬉しさに、私はトイレの中で一人安堵の息を漏らす。そういえば思春期の間は生理の周期も不安定だって、習ったような気がするな、なんて今更思い出した。模試続きで生活リズムも狂ってたし、体調不良はその影響もあったのか。早とちり恥ずかしい。
教室にこっそりナプキンを取りに帰り、またトイレへと戻りナプキンをつけてから空き教室に戻れば、蓮二くんはお弁当も食べずに何かを考えるように物憂げに窓の外を見つめていた。

「れ、蓮二くん、あのね、」
「ひな、平気か」
「うん、あの、」
「妊娠しているかもしれない身で走るのはあまり良くない。帰り、部活を休んで薬局に寄るか。いや、早い方がいい。今から早退して…」

矢継ぎ早に言葉を繰り出す蓮二くんは、らしくない焦り様だった。その勢いに気圧されていたが、ハッとして違うの!と叫べばようやく蓮二くんの口から紡ぎ出される言葉が、途切れる。

「違うの、あのね、大丈夫だった。私、妊娠してなかった。生理来たよ!」

いつもならこんな恥ずかしい事を大声で報告しないけれども、事が事だ。興奮気味にさっき起こった事を告げれば、蓮二くんはポカンと間抜けな顔をした後、俯いて顔を手で覆った。なんかごめんね、と顔を覗き込もうとすれば引き寄せられて、良かった、と息を吐くような安堵の声が漏れる。確かに私達は学生だし、今は子供を生めないのも分かってるけどあからさまにほっとされると、なんだか複雑なのが女心だ。いや、私も大分ほっとしたけど。
それを察したのか、蓮二くんは「俺には俺の計画があるんだ」と苦笑して私を抱き寄せる。私は立ったままなので、蓮二くんが私のお腹に顔をおでこをあてているような、おかしな体勢だ。まるで、子宮の中のまだ見ぬ誰かとお喋りしようとするかのように。

「…今ひなを妊娠させたとなれば、お前の父親はきっと俺を許さないだろう」
「う、うん…」
「いつかちゃんと然るべき時期になった時に、また同じ言葉を聞かせてくれるか」

ゆうるりと私のお腹を撫でる手に、何故かぞくりとする。いつか本当に、蓮二くんとの子供ができたよって報告する日がくるのだろうか。だとしたら、とっても素敵だ。ふわりと蓮二くんの滑らかな髪の毛に掌を寄せて、いつかね、と夢物語を紡げば、蓮二くんは擽ったそうに、子供のように笑った。




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