今日は期末テストの1日前という事で、急遽蓮二くんのお家にお邪魔して勉強会を開いていた。と、いうのも明日は私の嫌いな古典と数学が並んでしまったわけで、テスト日程表を見てうちひしがれている私に蓮二くんが声をかけてくれたというわけだ。綺麗にまとめられたノートを貸してもらって、それを目で辿っていく。蓮二くんはというと緑茶の入った湯呑み片手に、私が必死に勉強しているのを教科書片手に見つめていた。くそお、今回も余裕そうでなにより。
「なんで蓮二くんいつもそんなテスト前余裕なの」
「いつも授業を聞いてノートを取っていれば、別段テスト前だからと言って焦る事はないだろう」
「うっ…」
模範生の回答だ。私だって出来る限り頑張って授業は聞いてるけども、ご飯をお腹いっぱい食べた後ってすごく眠いし、体育の後もついつい居眠りしてしまうのである。つまりは眠いのである。
次からはがんばる、と言えば蓮二くんはそうしてくれ、と笑った。その顔は絶対信じてない。ムッとしたように蓮二くんを睨みあげれば、良いから早くノートをとれと前を向かされた。
―――…しばらく真面目に勉強していると段々眠くなってきて、目の前がなんだかふわんと浮いたように感じられる。自宅で勉強している時ならこのままベッドにころんコースだが、ここは蓮二くんの家だしましてや教えてもらっている最中なのに、そんな事はできない。何よりテストは明日だ。まだ数学なんて手もつけていない。
蓮二くんの指がノートをなぞるのをぼんやり見つめて、相変わらず綺麗な指だなぁ、と最早説明も頭に入ってこず、そんな事ばかり考えていた。すると突然、ぐいと肩を抱かれたかと思えば性急に口付けられる。思わぬ出来事に僅かに開いた口に、遠慮なく舌を捩じ込まれて控内を暴かれた。酸素が足りない、と懸命に息を吸おうとしても呼吸を奪うようなキスに、苦しくて蓮二くんの肩を叩く。
「…全く集中していないだろう」
ようやく離れた唇から零れた言葉は図星であり、息を吸い込み肩を揺らしながら、私は明後日の方向を向く。だって眠かったんだもん、と消えちゃいそうな声で呟けば、返事の代わりに溜め息がこぼれた。
「れ、蓮二くんだってこんな…その…集中してないからっていきなりキス、しなくても…」
「目が覚めただろう?」
「……もー!」
酸素薄くなると余計眠くなるじゃん、とそこで繋げたのが良くなかった。間違いだった。他の方法ならいいんだな?と確かめるというよりもただ楽しんでいるような声色で問い掛けられて、ぐいと抱き寄せられる。蓮二くんに背中を向けるような体勢で、なにするの、と言いかけた唇がひい!という何とも色気のない悲鳴を発した。蓮二くんの舌が、うなじを這っている。逃げようとしてもお腹の前で組まれた手がそれを許してくれないし、半ば混乱しながらやだやだ!と前のめりになるのを追いかけるかのように、同じところを軽く噛まれた。
「っ、い…いたっ」
鋭い痛みが走るけれどまたそこを慰めるかのように優しく食まれて、恥ずかしいのと痛いのと、それからなんだか変な気分になるのが怖くて、もうちゃんと目ぇ覚めたから!と叫べば案外簡単に解放された。うなじを押さえて蓮二くんに「ばか!」と思わず悪態をつくと、顔が真っ赤だなと笑われる。
「蓮二くんが、変なこと、するから…!」
「でも目は覚めただろう」
「……うっ」
「元はと言えば、勉強中に寝ようとしたお前が悪い」
それはそうかもしれない、と納得しかけたところで思わずちがうちがう!と心の中で自主ツッコミしてしまう。危なかった、蓮二くんに変な理論で論破されちゃいそうだったよ今。蓮二くんをじとーっと睨みつけても大きな手が私の頭を優しく撫で付けるだけで、ずるいなぁと思いながら再びシャーペンを取る。未だドキドキが収まらなくて、ぎゅ、とシャーペンを握り締めた。私はいつになったら蓮二くんに勝てるのかな、と溢せばもう勝ってるだろう、と私の横に垂れた髪を耳にかけながら蓮二くんが笑う。なんだかその言葉が擽ったくて、勉強のことだもん、と反論してやれば、そちらは努力次第だなと厳しいお言葉を頂いたけれども。