付き合ってるのかと言われるくらいに、小さい頃からいっつも仲が良さげに見えていた私達だけども、私と蓮二がキスしたのは本当にあれが初めての事だったのだ。ああ、もうちょっとで唇が触れそうだな、なんて事はいくらでもあった。でも、重ねられる事は今まで一度もなくて、今改めて認識する。それが、私達が幼馴染でいられる境界線だったんだ。
「…妹のようだと、思っている。それは初めて逢った頃から変わらない」
俯いたままの私に、優しい声で残酷な事を言う。妹。変わらない。変われ、ない。そう宣告されたのが悲しくて、何より悔しくて私はまだ蓮二を見れずにいた。
「……じゃあ、蓮二は妹にキスするの?」
「お前は妹のようだが、妹ではないからな」
「…どういう、」
少し不機嫌な響きを声に滲ませれば、蓮二が小さく笑う。何が面白いの。
「妹のように思ってはいるが、ひなが本当の妹でなくて良かったと感謝しない日はなかった」
「よくわかんない」
「本当の兄と妹なら、こうして触れ合うのを咎められるだろう」
そう言って蓮二は私の顎のラインを撫ぜて、ゆうるりと私の顔をあげさせる。しばらく言葉もなしに見つめ合えば、昨日みたいにゆっくりと唇が重なりあった。すぐに離れていくそれを追うように蓮二の服を掴んで、今度は私から口付ける。頭が機能してないみたいに真っ白で、蓮二に触れた所から熱が広がっていった。
「妹って言わないで。ちゃんと一人の女の子として見てよ」
「いつまでも俺を男として見なかったのはひなの方だろう」
「…蓮二だって、」
「俺は昔から、ひなしか見ていなかった。それくらい、鈍いお前でも分かってるだろう」
「に、鈍い…」
ぐしゃりと髪を撫でられて、過去を思い返してみる。確かに、蓮二はあれだけモテてたのに彼女すら作らずに、ずっと私の世話ばっかりやいていた。それを妬まれたりもしたけど、私から蓮二を強く拒んだこともない。結局の所、私だって離そうと思えばいつだって離せた蓮二のこの手を、誰にもとられたくないとぎゅうと握り締めていたのだ。
「……でも、今更蓮二が彼氏なんて変な感じする」
「…中々酷い事を言うな」
「でも多分ね、蓮二以外の男の子が私の隣にいる方がもっと変な感じがするんだと思うよ」
私の駄目なところもいいところも全部、知っててくれている。きっと、蓮二じゃない男の子と仮に付き合ったとしても、結局帰ってくるのは蓮二のところなのかもしれない。なんだか、相当、知らない間に蓮二に依存してる。悔しいくらいに、私の頭を撫でるこの手が、この体温じゃなきゃ駄目なのだ。
「だから私、蓮二の事好きかも」
「かも、か」
「だって分かんない」
確信できないもん、と眉を下げる私に、じゃあ分かるまで待っててやろう、と相変わらず余裕そうに笑う蓮二を見上げれば、蓮二はふと何かを思い付いたように口に手をあてた。
「…いや、これ以上あまり待たされるのも億劫だな」
そう呟いたかと思えば引き寄せるように私をふわりと抱き締めて、今すぐに分からせてやろうか、と耳元で囁かれれば、私の顔は自分でも分かるくらいに真っ赤に火照る。いらない、と拒む私の声を呑み込むように降ってくる唇に、私はぎゅっと目を閉じた。ああ、触れた所から蓮二に伝わるこの熱が、もう既に導き出された答えを示してるのだ。
おわり!