下にいくほど新しい


彼氏様と私(幸村)


ひなちゃんの彼氏ってホントにかっこいいね、なんてふわふわした女の子達に囲まれて言われた私は、そう?ありがと!と返事を返して急いで教室を出る。数人の女の子達は、窓の外をちらちら眺めていたり、あるいは身を乗り出すようにして食い入るように外にいる人物を見つめていた。彼女達の視線の先には、ここ女子校においては異色の、つまり男子生徒が校門の前に立っていて、彼女達のお目当ては彼なのである。
いくら男に餓えた女子校と言えども、選り好みはする。校門前に佇む男子生徒は、それはそれは美少年だったのだ。そんな男が何の取り柄もない私の彼氏だというのだから、世も末だなぁなんて意味のわからない事を考える。



「精市」
「寒い。お前、出てくるの遅いんだけど」
「はいはい申し訳ないです」

私の彼氏は幸村精市といって、立海大附属というマンモス校に通う勉強もスポーツも万能なイケメン君である。天は人に二物を?うん?なんだっけか。そんな度忘れをしてしまいたくなる程のパーフェクトな彼氏だが、まあ、多少性格に難有りと言ってもあながち間違いではないと思う。多少どころかすごく。
王子様みたいな面して意外と辛辣だし言いたい事はズバズバ言うし、ワガママだし喜怒哀楽も割と激しい。


「で、どうだったの?」
「ああ、うん。B判定」
「……微妙」
「ええっ、そこは褒めてよ」

何がBかと言えば、私の模試の結果である。今は女子中に通ってる私だが、春からは精市と一緒の立海に通うべく、猛勉強しているのだ。そこまで頭がよろしくない私が立海に入ろうと思えば相当な勉強が必要なのだが、塾に行ってる時間が惜しい、だなんて言い出した精市が、私の家庭教師である。入院したり部活に打ち込んでたりと私よりも勉強する時間が少ないはずなのに、こいつの頭の良さは本当に反則レベルだ。まあ、それも努力の賜なのだろうけれども。要領が良いって羨ましい。

「Bで褒めろって?お前馬鹿だし褒めた時点で達成感覚えてもう伸びないよ」
「うわ想像できる」

精市が馬鹿とか頭悪いとか言うのも、付き合いが長い為に慣れたものだ。友達時代から精市は私を好き勝手罵倒するものだから、てっきり私の事なんて嫌いだと思ってたのに、ある日校門前で俺と付き合って、である。あの時の衝撃といったら、ない。本当に一瞬何が起こったのか分からずに呆ける私に、返事は?と顔を覗き込んできた精市の傲慢な、それでも少しだけ不安げな表情が、今でも忘れられない。


「これが最後の模試だろ?ああもう、不安で仕方ない」
「精市は心配性だね」
「誰のせいだと思ってるんだよ」

そう言って髪の毛をぐしゃりと乱される。
私のせいだね、と言うとそのまま軽く後頭部を叩かれた。地味に痛い。

「ひなは、不安とかないの?」
「えっ、もちろんあるよ。でも精市がいっぱい教えてくれたから、頑張らなくちゃって思うだけ。弱音とか、吐いてられないなって」
「……馬鹿」

また後頭部をぱしんと叩いて、精市は優しく笑った。それにつられて私も笑ってしまう。
精々、頑張れば。だなんて不器用で優しい言葉を呟く精市に気付かれないように小さく笑って、うん、と返事をしてその腕にしがみつく。私の鞄には精市がくれたお守りがぶら下がっていて、本当に何から何まで精市が見守っていてくれてるんだなぁと思えばなんとも温かな気持ちになった。

「精市、私の事好きだね」
「調子に乗るな」

彼のふわふわの髪から覗く耳は、少しだけ赤い。










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