下にいくほど新しい


幸せ大さじいっぱい(跡部)

※結友さんに贈るお誕生日お祝いのお話です。





お金じゃ買えない価値がある、とはよく言ったものだ。だからこそ、私は景吾に誕生日プレゼントは何がいいのかと聞かれた時に、お金じゃ買えない価値のあるものが欲しいな、と我が侭を言ってみたのである。私が前々から欲しがっていたCDや本、ぬいぐるみ。それらを予想していたらしい景吾は珍しく目を見開いて所謂間抜け面になっていた。世界の跡部景吾サマのこんな表情が見れるのは、きっと長い付き合いの私くらいである。考えといてね、と手をひらひらさせて車から降りれば、おい待てと景吾が私を引き留めようとしたけども、今日は塾があるから急いでるのとドアを閉める。

何の因果か、かの有名な跡部景吾と私が知り合ったのは、もちろん景吾がイギリスのなんたらプライマリースクールを経て日本へと帰って来た頃である。跡部財閥の子会社の社長であるうちのパパに付き添ってパーティーに行った時、つまらなさそうに端っこに座る私に声をかけたのが景吾だった。子供の私は景吾がどういう人間かも知らなくて、何か食えばいいのによと上から目線で言ってくる景吾を、じゃああっちのゼリー取ってきてよだとか、あのハムおいしそう持って来てよとこき使ったのが始まりである。景吾は文句こそ言ったものの私の言う通りにしてくれて、この事については後からパパにすごく叱られた。
でも景吾は、同じ中学だと分かってからもそんな私と仲良くしてくれて、最初の頃は景吾の取り巻きの女の子達があーだこーだと煩かったけども、最近ではそれももうなくなった。それ程、私と景吾はずっと一緒にいる。





「お前、相変わらず跡部に厳しいよなぁ」
「…これ厳しいっていうの?」
「お金で買えない価値のあるもの…ですか」

まるでトンチみたいですね、と笑う長太郎にいや例えば景吾がいいと思ったなら、道端に咲いてる花でもいいわけだよ?と返せば、ロマンチックですねと言われてしまった。それをロマンチックに繋げられる長太郎の方が、ロマンチックである。

「道端の花とか、汚ねェだろ…」
「宍戸にはロマンチックさの欠片もないね」
「んな事言ってっと、プレゼントやんねーぞ」
「あ〜うそうそ!うそです!」

宍戸と長太郎からそれぞれプレゼントとおめでとうの言葉を受け取って、思わず笑顔になる。皆にこうやって祝ってもらえる自分の誕生日っていうのは、やっぱり一年で一番大切で素敵な日なんじゃないかって思うのだ。
跡部に何もらったか後で教えろよ、と笑う宍戸に、俺も気になります、と長太郎が目を輝かせる。朝から難しい顔してあれこれ考えていたらしいから、これは期待してもいいのかな。

「これでホントに道端の花だったら面白いな」
「去年の誕生日にお花いっぱいもらったし、今年もかぶせてくるって事はないと思うけど」

そんな会話をしている内に、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。ああ、でも今まで生きてきてこんなに誰かからの誕生日プレゼントが楽しみなのは、きっと初めてだ。



放課後、部活が終わってからいつものように景吾のお迎えに来た車に乗り込むと、先に部活を終えて車の中で待っていたらしい景吾は、腕と足を組んで自信ありげに笑っていた。

「その様子だと、景吾も満足のいくプレゼント用意してくれたみたいだね」
「ああ」

やっぱり、自信ありげである。ドアが閉まって、車が発進すると景吾は前を向いたままで「誕生日おめでとう」と言った。それ朝も聞いたよ、と言えばこういうのは何度言ってもいいだろう、と細められた目で私を見やる。まあ嬉しいけども。プレゼントを急かすのもあれなので、景吾からの次の言葉を黙って待つ。私はまるで小さな子供のようにドキドキワクワクしていた。

「プレゼントだが」

きた!と景吾の方を向いて顔を明るくすれば、景吾はそんな私の様子をまあ待て、と笑う。

「私、実は景吾からのプレゼントが一番楽しみだったの」
「そうか」
「あ、これ別にハードルあげてるわけじゃないよ。景吾からなら何もらっても嬉しいもん。道端の花でも」
「ハードルはいくら上がっても構わねぇ」

道端の花はスルーされた。相変わらず自信家な景吾の言葉にうんうんと頷くと、景吾はふわりと笑ってひな、と私の名前を優しい声で紡ぐ。

「うん、なに?」
「お前に、俺の女になる権利をプレゼントしてやる」
「…………えっ?」
「彼女にしてやるって言ってんだ」

人からのプレゼントを無下にする程、失礼な女じゃねぇだろうな?と付け足されても、私は未だぽかん顔で景吾を見つめていた。景吾の、女。彼女。確かにお金じゃ買えない、すごくすごく価値のあるものだ。

「…でも、そんなものプレゼントしてもいいの?」
「今までにない、最高のプレゼントだろ」

ふん、と口元を吊り上げる景吾に、思わず私まで笑ってしまう。
景吾がまさかの私をあげる作戦を使うなんてと言えば、俺がお前に貰われるんじゃなく、俺がお前を貰ってやるって言ってんだと屁理屈をこねられた。彼女、かぁ。そんな名前を貰ったところで今すぐに私と景吾に何か目に見える変化はないわけだけれど、心が不思議と温かい。幸せと、笑顔と、優しい言葉。いつも景吾が私にくれているものだ。
ありがとう、幸せだよ。素直に口に出してみれば、ああ、と短いけれど温かな響きで返事がくる。そんな些細なことでさえ私を幸せにしてくれる景吾はきっとこれからも、毎日を誕生日みたいにハッピーな日々に変えていってくれるんだろう。そして私は、景吾にとっても私がそうであればいいな、なんて思うのだ。






結友さんお誕生日おめでとうございました!あんまり跡部様喋ってなくてごめんなさい…








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