下にいくほど新しい


My sweet girl and my sweet home(千歳)

(境先生10万おめでとう!すごく今更だけど!愛はある!)
(千歳くんの方言分からない)






人間の性格なんてものは、本人が意識して変えようとしても中々変わらないものなのだから、特に自分から変えようともしない人間に変われと願うのは、馬鹿のする事だ、と思う。つまり何が言いたいかというと、ちーくんは中学生の時から今まで、ちっとも変わる気配を見せないというわけである。

「ぎゃー!この玉ねぎやばい何かに進化しそうになってるよ、ちーくん!」
「せっかくもらったのに勿体無いばい…」
「勿体無いと思うなら、ちゃんと定期的にお家帰って来てよ!」

ゴミ袋を玉ねぎの入った段ボールにかぶせながらちーくんをキッと睨めば、そげに怒ってたらむぞらしい顔が台無しばいねだとかなんとか言って、私の機嫌をとろうとするのだ。幼馴染のちーくんは、大学生になってもあっちへふらふら、こっちへふらふらして大学にもろくに行っていないようである。このそよ風のように気ままな幼馴染のお目付け役、とでもいうような大層なものではないが、中学生の頃ここに越してきたちーくんを、よろしく頼むわねと大家さんに言われてしまったのを、大学生になった今でも私は律義に守っていた。ちーくんは机の上に積もった埃を布巾で拭き取りながら、玉ねぎがもったいないだとかなんだとかまだ嘆いていた。だから家に帰って来なさいってば。

「ちーくん、私達もう子供じゃないんだよ。ちゃんと将来のことも考えなきゃ」
「真面目たいねぇ」
「ちーくんが不真面目過ぎるの!」

私だってこんなガミガミ怒りたくないんだよ、でもこればっかりはちーくんがわるい!腰に手を当ててこの際だから全部まとめて叱っちゃおうとする私を、ちーくんは叱られてるにも拘わらずにこにこと見つめている。その毒気を抜かれるような笑顔に「なによ」とむすっとしてみれば、ひなちゃんはよかお母さんになりそうで嬉しか、と言われた。なんでちーくんが嬉しいの。

「まあ、ちーくんもゆくよきはパパになるわけですよ」
「うん」
「私もちーくんが良いパパになってくれたら嬉しいな」

同じ言葉で返してみれば、ちーくんはパアッと顔を明るくしてにっこり太陽が輝くような笑顔で頷いてくれた。良かった、分かってくれた。まあ今回も口先ばかりの約束になりそうだけども、と心の中でがっくりと肩を落としながら、使えるまでには綺麗になった部屋を見回して、じゃあ私帰るねと言って部屋を出ようとする。私にも夕食の支度とか明日までのレポートとか、色々用事があるのだ。

「ひなちゃん」
「な、に…おっと」

ちーくんがぶんと放り投げたものをなんとか受け取って、これなあに?と問い掛けてみれば開けるよう促された。だからなんなの。
和紙で包んだそれをそっと開けば、キラキラと輝く白とも銀ともつかぬ、粒。窓から差し込んでくる夕日に照らせば、幻想的にその光を反射しているようだった。

「……しんじゅ?」
「北の方で漁を手伝った時に貰ったものばい」
「え!?本物!??」

宝石だとかブランドとかにそんな興味津々というわけでもないけども、やっぱり実際手にしてみると綺麗だなぁと思うわけで。素直に綺麗、と口に出せば「婚約指輪代わりに」と言われてこくりと頷いた。…頷いて、そのまましばらく固まった後私は「婚約指輪!?」と大声を出す。壁が薄いせいでお隣にも聞こえたらしく、ドンと叩かれた。慌てて口を塞いで、もう一度小さな声で「婚約って、なに」と問い掛ける。そんな事、前触れもなしに。好きの言葉も愛してるも、結婚しようだとか、私はちーくんに何も言われた事がない。
キラキラ光る真珠を見下ろしてはちーくんを見つめ、また視線を落とす。

「ひなちゃんとなら、毎日帰る家を持つのも悪かないと思って」
「………なにそれ」

なにそれ、なにそれ。こんなふらふらしたひとだから、今度いつまたどこかへ行ってしまうかも分からない。きっと私を置いてどこかへ行って、と思えばまたふらりと返ってくる。気まぐれで、どうしようもないひとだ。

「…ちーくんはほんと、どうしようもない、ひとだよ」
「ばってん、ひなちゃんがおるなら毎日でも家に帰ってくるとよ」
「うそだ」

そんなのちーくんじゃないよ、と笑えばちーくんは複雑そうな顔をする。

「でもちーくん一人の家じゃ、またフラッとどっか行ってさ、こうやって玉ねぎ腐らせて、帰ってきたら電気もガスも水道も止められかねないし。私がおうちで待つひとになってあげてもいいよ」
「ひなちゃんが家にいるならなるべく帰って来るったい。お土産もって、なるべく」
「うん、なるべく帰って来るんだよ。私も気まぐれだから、いついなくなるか分からないんだから」

いつかちーくんがちゃんとプロポーズしてくれる時まで、と真珠を返そうとすればやんわりと断られる。だって、こんなもの私が持ってたってまさに豚に真珠だよと言えばちーくんが笑った。ここ笑うところじゃなくてフォローするところ!

「いや、ひなちゃんがあまりにめんこくて」

私が怒ればこんな事を言うものだから、ろくに反論も出来ない。真珠をぎゅうと握って、まずはご飯にするよと言えばちーくんは手伝うと立ち上がる。二人で狭いキッチンに立ちながら、ああこれが未来の旦那様になるんだろうかと考えれば、なんだかくすぐったいような気持ちになった。箪笥の上に置いた小さな粒は、夕日に当てられてきらりきらりと優しく光っている。









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