下にいくほど新しい


日吉誕!

「日吉、お誕生日おめでとう!」
「…これ食べれるんですか」
「し、失礼な!跡部くんに頼んで最高級の材料を調達してもらって、私が作ったんだよ?どや!」
「適材適所という言葉があってですね先輩」

ひな先輩が持つ皿にのっているのは、イチゴと生クリームがたっぷりのケーキである。こう言ってみれば聞こえはいい。だが実際は、ケーキと呼ぶのも憚られるようなぐっちゃぐちゃな物体Xが俺の目の前にはあった。この人絶対技術家庭科とか美術は5段階評価でどう頑張っても3以下しか付かない人だ。

「味は保証するぜ、日吉」
「ひなは飾り付けが少し下手なだけで、味自体に問題はないんや。な?」
「少しってレベルじゃないですよこれ…」
「じゃあいらない?」

悲しそうな顔をするひな先輩は、きっと分かっててやってるんだろう。捨てられた子犬のようなその演技くさい表情に、悔しいけれど分かっていても折れざるを得ない。それだけ俺は彼女に甘いのだ。何が悲しくて自分の誕生日に譲らなくてはならないんだ。
そんな事を心の中で愚痴りつつも、フォークください、と言えば「食べてくれるの?」と嬉しそうな顔をしてひな先輩はプラスチックのフォークを取り出した。

「まあせっかく作ってくれた事ですし…」
「じゃあ、日吉、あーんして」
「は?」

思わず素で聞き返せば、後ろでジャージをハンガーに掛けていた向日さんがヒューヒュー!だなんて下卑た煽りをしてくる。芥川さんも今日に限って起きていて、あーケーキいいないいなー!ひな俺にもちょうだい!だなんて此方に寄ってくるではないか。「ちょっと失敗しちゃってね」と頬を染めるひな先輩に「なんで?おいしそー!」と笑顔を向ける芥川さんにこいつは一体なにを言ってるんだ状態である。おいしそう?これが?っていうか、ひな先輩もなに嬉しそうな顔してるんですか、全く意味が分からない。どこからどう見てもケーキは美味しそうじゃない。でも、このケーキは俺のために作ったんでしょう。

「いつまで口開けてればいいんですか」
「えっ!えっ…日吉がまさかのってくれるなんて!ねえ宍戸くん日吉がちょう成長したよさすがいっこお兄さんになっただけあるね!」
「いいから早く」

フォーク片手に宍戸さんにどうでもいい報告をするひな先輩の腕をぐいと引いて、フォークにのせられたケーキを頬張る。見た目はぐちゃぐちゃだったけど、やっぱり味は悪くない。

「ど、どう?おいしい?」
「…ケーキなんてスポンジにクリームとイチゴのせるだけでしょう。要は材料じゃないですか」
「愛情とかも詰まってるもん…」
「……よくもそんな台詞照れずに言えますね」

そりゃ材料はおいしいけどさぁ、とフォークで掬って一口食べようとするひな先輩の腕をまた引いて、フォークを口内へ迎え入れる。悪くはないです、と咀嚼しつつ答えれば、美味しいってことだね!と笑って跡部くんどうしよう褒められちゃった!とケーキを持ったまま飛び跳ねるひな先輩からケーキを取り上げると、俺も食べたい俺も食べたいと芥川さんが俺の腰にまとわりついた。やめてください子供ですか。

「待て日吉、俺様からもケーキを用意してある」
「なんでケーキにケーキかぶせてくるんですかアンタ馬鹿ですか」
「じゃあ美味しい紅茶でも淹れようか?樺地、カップとソーサーの用意だけ手伝ってくれる?」
「ウス」
「わーい!滝くんの紅茶大好き!」

狭くはないけれど広くもない部室の中でパーティーを開く気なのか、この人たちは。馬鹿ばっかりだな、と思いつつもひな先輩のケーキをもう一口食べる。ほらほら主役はこっち、と鳳に誘導されるままいつも跡部さんが座っているド派手な椅子に座らされ、クラッカー行き渡ったか?という宍戸さんの言葉に、こんな密集してるのにクラッカー使うとか絶対火薬くさいじゃないですか、と反論すれば「うっせえジュース頭からかけんぞ!」と返された。なにこの先輩怖い。

「飾り付けとかあったら可愛いのにね」
「いりません」
「素直じゃないね。……ケーキ気に入った?」
「腹が減ってるだけです」
「ふふ、日吉かわいい」

にへら、と笑うひな先輩にアンタのその顔こそ可愛いでしょう、と言いかけた口にケーキを放り込んで、かわいくないです、とだけ返しておいた。それでもひな先輩はニコニコ笑っている。こういう煩い空間は好きじゃないけども、まあ今日くらいは我慢するかと思いながら、クラッカーをスタンバイする皆に「こっち向けないでくださいね」と言ってみた。まあ結果は、パンという破裂音と共に色とりどりのテープを全身に浴びる事になったのだけども。









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