下にいくほど新しい


跡部様誕!

「ちょっと待てこれは何の罰ゲームだ」
「罰ゲームとかひどい!純粋に私は跡部くんを祝おうとしてですね」
「せやで。ひなは一ヶ月前から跡部の誕生日に何しよかて真剣に悩んでたんやから」
「その結果がこれならお前の一ヶ月は相当無駄なものだったな。罰ゲームじゃないなら嫌がらせか何かか」

俺の言葉さえ無視してはい、とフォークを渡してくるひなに「じゃあ試しにお前が一口食え」というと私は跡部くんのために作ったんだよ!と眉をひそめる。が、その口元は微妙にひくひくとひきつっていた。やっぱりこれはただの嫌がらせか。

「な、なにが不満なんだよ跡部。お前の好きな黒に、金だろ」
「あとほら、このローストビーフヨークシャテリア…?も、跡部くん好きでしょ!」
「ヨークシャテリアは犬です先輩。ヨークシャープディング添えです」
「そうそれ。跡部くんの好きなものばっかり詰めたこのケーキに何が不満なの!3つまで挙げてみてよ」
「ケーキのスポンジが黒なところ、ローストビーフがのってるところ、テメーらがにやにやしてるとこだ!」
「きゃー跡部くんが怒ったー!」

避難!避難!と騒ぎながらそれぞれ部室の隅に逃れ、最早ニヤニヤするのを隠そうともしない。部活終わりに少し残ってて、と言われて仕方なくその通りにしてやれば、まさかのこの仕打ちか。帰るぞ、と不機嫌さを隠さずに言ってやれば、あー待って待って!とひなが自分の鞄の中をごそごそと探り出す。

「はい!」
「……今度はなんだ」
「跡部くんと私たちの3年間が詰まったアルバム。と、皆からの寄せ書き」
「……」
「跡部くん、お金持ちだからなんでも自分で手に入るでしょ?でもこういう気持ちのこもったものは、いくら金詰んでも手に入らないから、これがいいかなって。あとあのケーキ」
「ケーキは食わねぇぞ」

アルバムを捲ってみれば、写真の横にそれぞれひなの字でコメントがついていて、中にはもう記憶の奥底にしまわれていた懐かしい写真まである。馬鹿か、と呟けば「これでも俺たち、一生懸命考えたんだよ」と慈郎がひなの後ろに隠れたままで此方を伺った。その言葉に、それ作ろうって言い出したのは俺だからな!と岳人が同調し、樺地もこくりと頷く。

「まあケーキはただの嫌がらせですけど」
「てめっ、若!余計なことを!」
「本当の事でしょうが」
「わー違うんだよ跡部くん!そのケーキは私たちが心を込めて作った美味しいケーキなんだよ!」

ぶんぶんと手を振りながらとりあえずひとくち食べてみなよ!と目を輝かせるひなの口に、じゃあお前が食えとスポンジ部分を突っ込んでやれば、その場にがくりと膝をついて黙り込み「おみずください…」と消えそうな声で助けを求めた。人を呪わばってやつ、と苦笑しながら滝が水筒を渡してやるのを見ながら、やはり食べなくて正解だったと溜め息をつく。

「おいテメーら、感謝はしてる。だがこのケーキでプラマイゼロだ」
「素直にありがとうって言えばいいのに、かわいくねーやつ!」
「跡部が可愛いわけねーだろ」
「跡部やからなぁ」

口々に呟いて笑い出す奴らに、なんて奴らだと思いながらも、なんだか俺まで笑いが込み上げてくる。ふ、と目を細めて笑い、水筒からお茶を飲むひなに「おい」と呼び掛ければ涙目のままで俺を見上げた。

「食いはしねーが、持って帰ってはやる」
「えっ!食べてよ!私は食べた!」
「お前の惨状を見た後で食えるか、ばーか」
「一個歳とったのに馬鹿とか大人げないこと言わないでください〜」

べーっと舌を出すひなの頭をくしゃりと撫でて、祝ってくれてありがとな、と言えばひなはキョトンとした後で、花が咲いたような笑顔を浮かべる。今までで一番うれしい誕生日?と顔を覗き込んでくるひなに「さあ、どうだかな」と言えばそこは冗談でもそうだって言うもんでしょ、と髪の毛をぐしゃぐしゃと乱された。
ハッピーバースデーのうた歌おうぜ!という岳人の呼び掛けに、いいね!とひなが立ち上がる。勘弁しろ、と思いつつも、せーの、というひなの掛け声になんだか心が温かくなってしまうような、むず痒い感じがした。こういうのも、なかなか悪くない。









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