下にいくほど新しい
愛玩コラボ作品!(幸村)
境めえさんのBATHさんのところの「
愛玩」のお話を書かせていただきました〜!
簡単な説明:お家でネグレクトに遭ってた女の子が幸村くんに拾われてテニス部の部室で飼われるお話。私は拾われたまさにそこらへんのお話を書かせていただきました!所謂プロローグみたいな感じですたぶん。めえちゃんありがとう!
※ちょっとだけえっちな描写があるので注意してください
髪の毛を悪戯に弄ぶ風は、いよいよ冷たくなってきた。公園の至る所から降り注ぐ弱々しい光は、夜の公園をより不気味なものに仕立てあげる飾り付けのようだ。勿論この空間が心地良いわけではない。それでも、此処から歩いてどこへ行く当ても、気力も、今の私には無かったのだ。ジジ、と電灯が時々力無く鳴く音が、いやに耳に障った。踞ったままでいると、なんだかこのまま眠ってしまいそうだった。こんなに穏やかなのは、久しぶりかもしれない。
目を閉じて、開ける頃には何かが変わるだろうか。嫌なものを全部消して、新しい温かい世界が生まれてくれば良いのに。そんな夢みたいな想いを胸に描きながら、眠気に身を任せて目を閉じる。
そんな時だった。ガシャンと柵が音を立てて、続いて足音が聞こえてくる。誰かが、公園に入って来たのだろうか。止せばいいのに、私は体を引き摺るようにして今居た滑り台の下から這い出る。すると、足音の主はぴたりと私の前で、足を止めた。月明かりの逆光でよく見えなくて、思わず目を細める。男の子、だ。闇夜を溶かし込んだような彼の綺麗な瞳が、私を捉える。私の頭の天辺から爪先までを見下ろした後で、私の瞳をじいと見つめた。絵本の中から出てきたような美しい男の子は、目を見開いて私に駆け寄ったかと思えば、その存在を確認するかのようにゆっくりと手を伸ばす。伸ばされた手に思わずびくりと肩を揺らす私に、男の子ははっとしたように手を引っ込めて、再び私を観察する。
「君はどこから来たの」
その声には、心配だとか興味だとか人間らしい色が滲んでいて、久しぶりに"人間"に出逢った、なんてぼんやりと考える。外灯がまた、ジジッと音を立てて点滅した。
「捨てられたの」
「捨てられた?」
「もう、いらないんだって」
何も知らない彼にこんな事を話して何の意味があるのかは、分からない。それでも私の口は気付けば勝手に動き、自身の生い立ちを語っていたのだ。まるでそれは、他人の物語を紡ぐようだった。自分じゃない、誰か他人の人生を見てきたかのような口振りだと、人事のように思う。しばらく黙って聞いていた彼は、顎に手を宛てて何かを考える仕草を見せる。それを目の端に映したまま、私は空腹を訴えるお腹をゆうるりと撫でながら抱えた膝に顔を埋めた。
「どれがいい」
がさり、と音がしたその後に、足元に何かが置かれる。顔をあげれば、男の子がコンビニの袋からパンとおにぎり、それからお菓子を次々と出しては、地面に置いていくところだった。どれがいいって?と尋ねれば、あげるよ、と微笑まれる。
「あげるって?」
「お腹空いてるんだろ」
「でも」
「食べなよ」
彼にとっては、野良犬や野良猫に餌を与えるのと人間にご飯を与えるのは、そう変わらないのだろうか。しばらく悩んだ後、恐る恐るパンに手を伸ばせば、彼はにこにこと笑みを浮かべたままそれを見つめていた。袋、開けてあげるよ。男の子の手が私の手からパンを取って、袋を開けて食べやすいようにと小さく千切って、私の口へと押し当てる。
躊躇う事なく口を開ければ、彼の指からパンの欠片が与えられた。二度、三度とそれが続いても、私は何故か自分で出来ると声をあげる事すらしようとしなかった。黙って、彼からパンを与えられるがままだ。
「雛鳥みたいだね」
「……」
「美味しい?」
その問いにこくりと頷けば、目を細めて満足気に微笑んだ男の子は私に最後の一欠片を与えて、すっと立ち上がる。月明かりに照らされた彼の姿は、まるで、この世のものではないみたいに美しい。花の香に誘われる蝶が如く、無意識に彼の服の裾を掴んでいた。驚く事なく、彼は立てる?と首を傾げる。ゆっくりと立ち上がれば、彼はふいと踵を返して出口へと歩いていった。その姿を、追い掛ける。見失わないように、必死に。彼は時々振り返っては私の姿を確認して、また前を向いてしまう。どうして彼を追うのか、どうしてこんなに必死なのか。それすらも分からないままに。
大きな家が沢山立ち並ぶ住宅街へ入ってしばらくすると、彼はようやく立ち止まった。くるりと振り返ったかと思えば、満足気に笑みを浮かべる。
「ついてきちゃったの?」
その声色は、呆れというよりも愉しげである。現に彼は、私が見失わなってしまわないようにゆっくりと、何度も振り向きながら此処まで歩いてきたのだ。凭れる壁に埋め込まれた表札には、幸村、と書かれていた。これが、彼の名前なのだろうか。彼の問い掛けに頷きもせずに黙っていると、彼はおいで、と手招きした。慌てて、門の中へと入っていく彼の後を追う。
「まずはお風呂」
私の泥を玄関で払いながら、男の子は「次に寝床だね」と靴を脱ぐ。どうすれば良いか分からずに突っ立ったままでいると、靴は脱いでね、と言って綺麗な指先が私の靴を脱がした。ぺたり、と裸足で家にあがる。彼は靴をビニール袋に入れてきゅっと結び、玄関の隅に無造作に置いた。
廊下を歩きながら、今更ながら彼はどうするつもりなのだろうか、と背中を見つめながら考える。どう見てもきっと、私と同じくらいの歳。一人暮らしでもない。家族に見つかったらどう説明するつもりなんだろうか。しかし、余計な心配はするなとでも言うように、男の子は私の手を引いて浴室に入れると、椅子に座らせた。
「汚い。ドロドロだね」
くすりと笑いながら、彼は腕まくりをして靴下を脱いでから、シャワーのお湯を出した。緩やかな音を立ててお湯を噴射するシャワーに手をかざし、しばらくしてから、彼は私の服の上から勢いよくお湯をかけた。驚く暇もなく、服はみるみる内にびしょ濡れになっていく。肌に貼り付く感覚が、なんだか気持ち悪い。
「下着、つけてないの?」
彼の手が、ゆっくりと胸の膨らみに触れた。シャワーのお湯でじんわりと濡らされたそこに触れる手に、確かめるかのように力が込められる。ぐに、と胸が形を変えるのが分かった。かあと頬を赤らめれば、彼は目を細めて「そんな顔も出来るんだ」と愉しげに笑う。
「下は……さすがに着けてるか」
その手がするりとスカートへと潜り込む。太腿から、ショーツへと。不安気に彼の様子を見守っていると、後ろ向いて、と声がかかった。言われるがままに向きを変えれば、肩に重みを感じた。彼が、顎を乗せているのだ。
ぐちゃぐちゃに濡れたショーツの中に彼の手が侵入する。思わず息を飲んだ。
「……っ、」
「俺に凭れて。力抜いて」
「う、あっ……!」
小さな悲鳴はシャワーの水音に掻き消される。濡れた私の服が自身の服すらもじわりと濡らしていくのにも構わず、彼はボディソープのポンプを数回押して、それを指に絡ませる。その指が、確かめるように膣に侵入してくる感覚に、唇を噛んで耐えた。
「こういう事されるのは、俺が初めて?」
優しい声色だったけれど、彼の指は早く答えろと急かすかのようにじりじりと奥を暴いていく。気持ち悪くて、苦しくて、私は必死になってこくこくと頷いた。排水溝に流れていくお湯を見つめる視界が、じわりと滲む。
「本当だろうね」
「ほん、と」
「嘘だったら後で容赦しないよ」
「っ、うっ、」
中で指を折り曲げられ、尚も私は何度も首を縦に振る。その様を壊れた人形のようだと彼が揶揄して、ようやくずるりと指は引き抜かれる。安堵の息が漏れた。
次は何をされるのかと怯えながら彼の方へと振り向けば、彼はにこりと笑って「さっきのはただの確認だから、君が嘘をついてないならもう何もしないよ」と優しく頭を撫でてくれる。確認、という言葉に引っ掛かりは感じたけれど、言葉通り彼は私の髪の毛を濡らしてシャンプーをし始めたので、私はただ泡が目に入らないようにと目を閉じる事しか出来なかったのである。
その夜は大きなベッドの上で彼の隣で丸まって眠った。柔らかいベッドと温かい布団、それから彼は私が眠るまで優しく背中を撫でてくれていたから、私が眠りに落ちるのはすぐだった。こんなに落ち着いた眠りは、久しぶりのようにも感じた。
朝起きれば、彼は制服に着替えながらベッドの中の私に微笑みかけて、おはようよりも先に「お前を飼う所を探さなきゃね」と言ったのだ。まだ寝惚けた頭で、飼う?と首を傾げれば、ここにずっと置いていくわけにはいかないから、と答えるのだが、私が聞きたいのはそちらではない。
「あの、飼うって、」
「だって、俺が世話をするわけだろう?」
「……?」
「だから、飼ってあげるって言ってるんだけど」
どうも彼に話が通じない。彼は私を起き上がらせて、どうしようかなぁ、と思案しているようだ。「俺一人で世話をするのは大変だから、やっぱり部室かな」と独り言を呟いた後で、芥子色のジャージを手渡す。
着ろってこと、なのかな。昨日与えられたTシャツの上から羽織ろうとすれば、彼は「それ、脱いで」と私の手からジャージを奪い取った。
「?」
「直接着て」
「で、でも」
私の反論は許されず、彼は朝練に遅れるから早く、と急かすばかりだ。仕方なしに恐る恐るTシャツを脱げば、自身のネクタイを結びながら彼は満足気に笑っていた。ジャージの生地が肌に直接擦れるのは、なんだか変な感じがした。
ジャージを上まで締めれば、次はスカートを渡される。妹のだけど、同じくらいの体格だから合うと思うよ、と言われて履いてみれば、成る程ちょうど良い。昨日の風呂上がり、下着は一切渡されずに大きめのTシャツが一枚、渡されただけだったので久しぶりに肌を隠してくれる布に、少しほっとした。
ジャージに、スカート、それからこれも妹のいらなくなったミュール、と履かされた白のミュール。なんとも可笑しな恰好だが、別段文句はない。朝御飯だと渡されたおにぎりを頬張りながら、まだ誰も居ない道を歩いた。
切符をもらって、電車に乗ってしばらくして、着いたのは見た事もない大きな建物だった。珍しげに建物を眺める私を振り返って、彼が笑みを浮かべる。
これから起こる事も何もかも、私は知る由もない。