その恋心、有罪
  



(ジョジョ4部/吉良)

今までに見たことのない程綺麗な手だった。初めて手に欲情を覚えたのはモナリザの手だったのをよく覚えているが、それを凌ぐほどに綺麗な白魚の様な白く細い指先、しなやかでとても美しく胸が激しく鼓動を打つのを感じた。それから、私はいい人の仮面を付けて、彼女に近づいた。彼女は成人はしていたが幼い顔立ちをしていて、とてもじゃないが成人済みとは思えなかった。だが、問題は顔じゃなかった。手だ、手。だが、殺してしまおうと思ったのにいつも躊躇ってしまう。何故か。それは単純明快に、そこいらに転がっている石と同じ様な程度の内容であった。手を恋人として切り落とせば何れ腐敗し、腐臭を放つ。匂いはまだ誤魔化し様があるが、腐敗は頂けない。要するに、彼女の手が死んでしまう、恋人が死んでしまうのがとても惜しいと思ったのだ。



何せ、彼女は今までの歴代彼女の中でもナンバーワンと言っても過言ではない手の持ち主だったからだ。私は今、薬局で買ったクリームを彼女にゆっくりとマッサージをするように撫で付けながらぬっていた。「ああ。本当に名前、君は綺麗だ」そう言うと射抜いたような瞳で私を睥睨していて「手が、でしょ」と言った。変な性癖ねと笑われたりもしたが、彼女は受け入れてくれた。こんなどうしようもない、私のことを受け入れてくれた。少なくとも殺すのは、その手が老いぼれの手に成るまで待ち、愛でたいと思ってしまう程だった。「ほら、クリームを良く塗らなければ。ああ、大丈夫だ。洗い物は済ませた」自分の手がいくら荒れようが気に成らないのだが、彼女の手が荒れてしまって見る影も無くなってしまったらいよいよ殺さなければ成らない。



パチン。パチン。爪で彼女の手を傷つけないように(殺人衝動がある時に良く伸びるのだが)切って、彼女の手も同様に切った。パチン、パチン。「成るべく手を傷つけないように。君は本当に今まで見てきた手の中で一番綺麗だ、素敵だ」そういって、すりすりと顔を寄せた。名前は少し嫌そうな顔をしていたが、顔立ちは自分でも悪いと思ったことが無いので単純にこの行為に嫌悪をしているように見えた。「人を愛せないなんて可哀想な人」何処か憐憫するような声が突き刺さった。痛みは伴わなかったが、酷く寂しい気持ちに成った。「ご飯の準備が出来た。さあ、食べよう。私が食べさせてあげよう」さぁ、口を開けて。と言うと大人しく従い口を小さく開けた。成る丈、手は使わせたくなかった。



名前の手は相変わらず綺麗だ。だが、最近自分の中で変化が見られてきたように思える。私は元々平穏に、普通に暮らしたかったのだ。名前が来てから、一緒に半ば強引に住むようになってからと言うもの心は凪いでいて、何処か平静を取り戻している自分に気が付いた。名前の顔になど興味がないと思っていたのだが、ご飯を食べさせるときに顔が綻ぶのを見ると自分まで嬉しく成るのに気が付いた。何より、此処最近、人を殺していない。自分が望んだ理想郷のようであった。「最近の吉良さんは何か変ね。私の顔をまじまじと見たり、手を交互に見たり」「自分の中で変化があったんだ。もう君に危害を加えたいとは思わない」「あら、そう。やっぱり悪いものでも食べたの?手以外に興味を示すなんてらしくない」「いや。どうやら、本当の平穏と言うものを手に入れられたのかもしれない」これからも未来永劫、ずっと、ずっとこの日々が続けばいいのにと思うが、殺人鬼の自分が何処までこの現状を維持できるかわからない。スタンドのキラークイーンが居るから大丈夫だと少し慢心はしているし、何より最近は殺していない。スタンド同士は惹かれあう。そんな話を聞いているから警戒はしているが、無用な人殺しはしたいと思ったことはない。



「さぁ、今日もクリームを塗ろう」「はぁ、でもやっぱり手が第一優先なのね」それは違うんだが、なんだか今更気恥ずかしいのだ。矢張り何度見ても美しい指先、手は屈んでクリームを塗っていない片手で私の頭を撫で付けた。「でも、私は吉良さんが好きよ」吃驚して手を強く握ってしまった。ああ、痣に成ったらどうしよう。と思ったより先に彼女の苦痛に歪む顔が目に入って申し訳ない事をしたと思った。「好きか、愛しいよ。君の手も、君自身もね」

Title カカリア

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