今だけは僕が世界の中心さ
  



(牧場物語/ティグレ)


最近、己の不調にティグレは苛立っていた。何故か体の節々が痛むし、何故だか声すらもうまく出せなくなっているというか自分の声じゃなくなっているような気がして。それから、ある女性の事ばかり考えている。それは、とある大きな牧場を経営している名前の事である。「ハア、」口から出るのは溜息ばかりである。その時であった。控えめなノックの音と共に今日も、恒例行事の如く彼女がやってきた。ティグレの好物の魚を持って「ティグレ君〜。お魚今日も釣れたから、一匹……って元気無いね」直ぐに異変に気付いた名前がティグレの俯きがちな顔を覗きこんだ。「!」吃驚したように跳ねあがって、数歩後ろに引いた。ティグレの様子に益々、名前が心配をした。



「ティグレ君どうしたの?熱でもあるの?」「い、イエ、無いでス」「そう?一応計らせてね」と先程まで海風に煽られていたのであろう冷たくなった手を額に、おしあてた。「んー。微熱?」「!も、やめテくださイ!」名前の手を乱暴に振り払ってしまうと名前が傷ついたような顔をして、ティグレは困ってしまった。そんな顔をさせたかったわけではなかったのだ。「ア、スミマセン……オレ、最近可笑しくテ……、」「?例えば」そう尋ねると一つ一つポツリポツリと呟くように異変を告げていく。言い難い事は暈して。貴女が気に成るなんて言えなくて。ただ、それを聞いて腕を組んでうんうんと頷いていた名前は全て理解したようで「ああ、思春期か」と笑った。ティグレは笑いごとではないと思っていたのだが、あっけらかんとした名前の前では苛立つわけにもいかず手を遊ばせて視線を外した。「そういえば、身長も伸びたね。それに声変わり?かな?」「育ちざかり、ですかラ。声変わり……、」そう言われると全てが彼女の言っていた思春期というものに合致する。



「オレ、こう見えてモ、結構食べるんですヨ」そういって、名前の隣に並べば確かに身長は僅差、或いはティグレの方が大きかった。名前はその差に驚きながらも「へぇ、じゃぁ、今度私の家に遊びにおいでよ。手料理振る舞うからさ」なんて何気なしに言うと「男を簡単に家にあげるなんテ、感心しませン」と怒られた。「……え、私とティグレ君は年が離れているから、」「そんなの恋の前には関係ないんですヨ、オレ、貴女が好き、ダト思いまス」ああ、言ってしまった。先程、口を噤んだのは何の意味があったのだろうか、とティグレは自嘲してしまった。



Title デコヤ

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