世界の形を教えておくれ
  



(おそ松さん/一松)


兄弟、自分を含めて六人も居る。そう、俺たちは六子。同じ服が六着、そして、どういうわけか皆此処(自宅)で腐った毎日を送っている。まぁ、所謂ニート。俺も腐ったゴミの一部。燃えないゴミ。そんな俺だけど、猫友達みたいなのがいる。無類の猫好きで、俺と一緒に猫と戯れたりする。兄弟もそのことを知っていて、エスパーにゃんこの時も、一緒に探してくれる等、少し世話に成っている。そんな名前に想いを寄せている、俺がいて。まじきもいというか、有り得ないというか、腐ったゴミ人間にもそんな感情が残っていたんだとか。感情がぐるぐる渦巻くわけで。「にゃー」元エスパーにゃんこだった猫が俺の膝下に乗っかってきた。ずしり、猫の重みが加わって少しだけ顔が綻んだ。



その僅かな仕草すらも見抜いてくる名前「あっは、猫本当に好きだね松野君」彼女は俺たちのことを松野君と呼ぶ。馬鹿だと思う。六人、親も合わせれば八人も松野君なのに、なんで名前で呼ばないのか理解に苦しむ。もしかして、なんだけど。いや、これは俺の想像で架空のお話である。俺たちの見分けがついていないので、俺たちのことを傷つけないために松野君と呼んでいるのではないのだろうか。ならば、全てのパズルのピースが嵌め込まれるように全ての謎が合致する。



「あのさぁ、もしかしてだけど、名前って、これだけ俺たちと長く一緒に居て、俺たちの区別付いていないとか?」名前は可愛らしく小首を傾げて「なんで?」と逆に尋ねてきた。俺は無意識なのかそれとも意識的に行っているのか少しだけ考えたが名前という女はそこまで打算的な女ではないし、頭の回転がいい方ではない。よってだ、無意識である。「だって、俺たちのこと松野君ってまとめて呼ぶでしょう」「え、いや、だって……」誰も特別に名前を呼んだことはない、区別が付いていないならばわからせてやればいいだけだ。猫をどけてやるとにゃー。鳴き声一つ媚びることもせずに降りてゆく。そして、顔を近づけてと息がかかるほどに。問いかける。「ねぇ、どうなの?」「わかっているよ……!」



やけにも見える彼女に追い打ちをかけるように詰問する。「じゃぁ、俺は誰でしょう?」「松野一松君」「!……正解」顔を離す。「わかっているならさ。名前で呼べばいいじゃん。なんで松野君なわけ?皆松野なんですけど」名前は顔を赤くして俯いてコンクリートでできた地面を見つめている。「だって。松野君の名前呼ぶの恥ずかしいんだもん。でも、ほかの兄弟たちだけ名前で呼ぶわけにもいかなくて、」ふっと柄にもなく笑みが零れた。「一松って呼んでよ、じゃなきゃ何するかわからないよ、俺」「えぇっ!」名前は熟れた果実のように頬を赤らめたまま、顔をあげて俺を凝視した。俺はそれに気付かないふりをして、猫じゃらしで猫とじゃれた。

Title 箱庭

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