チョコレートに愛を込めて
  



(おそ松さん/おそ松)


「あー、今日も負けたー!」あのパチンコ絶対詐欺だよ!一人静寂の中叫ぶおそ松。今日がバレンタインデーだということを忘れていたわけではない。ただ、自分が貰えないからパチンコで時間を潰していただけだ。これで、少しは寂しさも紛れるだろうと思っていたが、更に憂鬱に成ってしまった。軍資金三千円で粘ったのは褒めてほしい所である。だが、負けは負け。全部すってしまった。虚しく、景品を交換するのに、チョコ系の小さなお菓子があったのをみて、舌打ちを一つ。嫌な気持ちを携えたままそれと交換した。



意中の相手くらいは居る。だけど、届かないのだ。自分はニートで自堕落な生活を送っている。そんな自分に自信が無くて、彼女からは貰えないだろうと自覚していた。ポリポリ、市販の安いチョコレートの景品を食べながら歩く。直ぐに食べ終わってしまい、袋を捨ててやろうかと思ったが思い直して、ポケットに突っ込む。くしゃり、音を立ててそれは、ポケットに収まった。顔を下に向けて歩いていたら、名前の声が聞こえた。それは意中の相手の声だったのでバッと振返り、姿を確認する。駆け寄り声をかけた。「おー!名前ちゃんじゃん!奇遇〜。俺たちまさか、赤い運命の糸で結ばれているとか?!」「元気なさそうだと思ったけどそうでもないみたいだね」



あー、さっきまでパチンコですったことを確かにおそ松はがっかりしていた。だけど、名前の姿を見て、すぐにそれはチェンジしてしまった。恋する男は何かと忙しいのだ。「あー、そうそう。おそ松君、今日バレンタインデーでしょ、おそ松君にって思って家まで行ったんだけど、皆、おそ松兄さんはパチンコに行ったっていうから、探したんだよ?」ドクリ、毒でも食したかのように、それはじわりじわり侵食していく。先程までどんより曇天模様だった心(バレンタインデーのせいなのだが)も晴天へと導かれていった。「マジで?!」「うん……甘いの駄目だったかな?」「いやいや、俺今、超糖分欲しい気分だからっ!」



そっかと苦笑いするように玲瓏な瞳を細めて、ラッピングされたそれを差し出した。「糖分これで、取ってね、じゃ、また!」いそいそと、まるでおそ松から逃げ出す様にその場から走って行ってしまった。残されたおそ松は溜息を空気中に散布した。逃げ出すほど嫌われているのか……と。しかし、チョコレートを貰えたのは嬉しかったので兄弟に見つからない様に、公園に行きベンチに腰を下ろした。周りは寒さのせいか人も居なくて丁度よかった。がさがさラッピングを適当に開けていくと、チョコレートと一緒に封筒が入っていたのが目に留まった。「ん?」



カサリ、紙の独特の乾いた音と共にそれを開封する。「おそ松君、好きです」と短くそれだけが書かれていた。ふふっと笑みを零して「俺の何処に惚れたんだか……!本当物好きだよなァ、名前ちゃんも」ホワイトデーのお返しを考えなければと手作りのチョコレートケーキを頬張って思考を巡らせる。が、その前に、返事が先だろう。明日はなんて言おうか「俺も好きだ!ずっと前から!」じゃありきたりすぎる。明日の格好いい台詞を痛いカラ松にでも伝授してもらうか、といつのまにか空になった、箱を大事そうに持ち上げて、家路を辿った。

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