逸見




チョコをください、なんでもします。そんな勢いで頼みに来たのは、一つ学年が下の逸見君だった。私と彼との関係は、別に彼氏彼女でもなんでもなくて、ただの一介のマネージャーと選手の関係にすぎやしなかった。確かに、皆にはお世話に成っているからとチョコはいくつか持ってきているし、逸見君にだってこんな頼みこまれなくてもあげるつもりだった(義理だけども)。「勿論だよ」そういうと逸見君の顔が一瞬だけ明るくなったがすぐにハッと何かに気が付いたようにまた、影を落とした。「って、俺にくれるってこともは、龍崎にもあげるんだよな……それって」「?」何故、そこで龍崎君の名前が出てきたのかわからずに首を傾げると逸見君がぐっと拳を握りしめた。「何故って顔していますね。俺は、今……奴と勝負の最中です」勝負?とますますこんがらかり、よくわからないものに成ってしまったところで説明を入れてくれた。まあ、単純なお話が「チョコの数を競っている」とのことらしい。



だが、龍崎君は顔の出来が恐ろしいくいいためかなんなのか凄い勢いでチョコを貰っているらしく、自分は分が悪いと判断したらしい。「逸見君も結構、貰っているんじゃないの?」「それが、先ほどの昼食の時に、中間結果を見たところ、負けているんですよ!このままだと、俺……龍崎に何か奢らなきゃいけなくなる!」とやけに渋い顔のまま深く溜息をついた。「成る程、そういうことかー。でも、私があげても差を埋められる?」「恐らく。あ、龍崎にはあげないでくださいね!また差が開くから!いっそ、龍崎の分も貰えれば助かるんですけど」意外と図々しいなと思いつつも、逸見君が必死に頼み込んでくるのが可哀想に思えてきて、私は龍崎君の分と余分に持ってきていた分を渡した。「これで追いつけそうかな?」「あ、有難うございます!この恩は忘れません!俺が勝ったらクレープ奢りますんで!」「あはは、有難うねー。頑張って龍崎君に勝つんだよ」わしゃわしゃと可愛い後輩の頭を撫でつけて解放した。この勝負、絶対に逸見君に勝ってほしいな。



「あんた最低だな」「ハッ、これで俺の勝ちだな?龍崎」帰り道、チョコを大量に入れた袋を掲げて笑った。会話は、逸見が勝っているみたいな感じだが実際は逸見のチョコレートの数は負けていた。逸見は若干、勝負の内容を捏造していたのだ。確かにチョコの数も競ってはいた。だが、名前のチョコは他のチョコの数をもひっくり返す力を持っていたのだ。本当は名前からどちらが先にチョコを貰えるかというものだったのだ。「……名前先輩から貰えないなんて、本当可哀想だなー」「違うだろ、俺が名前にそれとなく、貰おうとしたときにはすでにあんたが名前からチョコを掻っ攫った後だったんだ」それに、と冷たくジト目で睨みつけて言い放った。「結局、俺も逸見も本命じゃなくて義理だったんだろう。それなら全然、俺は可哀想じゃないね。寧ろそこまでして貰う、あんたのほうがよっぽど哀れで滑稽で痛ましいぞ。虚しいな、あんた」「虚しくて結構。今年はお前の分も、俺が名前先輩の手作りチョコ食べてやるからなー」「〜!俺にもよこせーっ!」「やだよ!」



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