アルファ




アルファは時にとても物知りだ。今日は面白いネタを仕入れて来たのか、随分と機嫌のよさそうに見えた。と言っても、殆ど無表情に近い彼が満面の笑みという事は無いので若干、口角が持ち上がっているだとか雰囲気が和いでいるとかそういう僅かな変化を感じ取るほかないのだが。「名前、ハロウィンを知っているか?」「ハロウィン?」聞き馴染みのない言葉に首を傾げながらいや、知らないと素直に自分の無知を晒せば更に嬉しそうな様子を見せた。「随分昔の文化らしい。なんでも子供が、お菓子を貰えるイベントだとか」といっても、百年くらい前には既に廃れてしまった文化で今の現代っ子は殆ど聞き馴染みが無いか歴史に興味のある物だけが知っているとやや誇らしげに言った。



「へぇ、良い文化じゃん!なんで廃れたんだろう!」お菓子がもらえるだなんて素敵なイベント、廃れるべきではないと思うのだけど!とわくわくしながらアルファがお菓子をくれるのか伺うとアルファがポケットに手を突っ込んでグミの入った袋をくれた。「イエス、そういうと必ず強請られると思っていた」だから用意周到だったんだと感心していたらアルファがまだ話に続きがあると喜ぶ私を制した。ただ、食べるなとは言われなかったのでもぐもぐ口を動かしながらアルファの言葉に耳をしっかりと傾けた。このグミは弾力があって中々かみごたえがあって美味しいな。「何でも注意事項があるらしい、」



「こんなに素敵なのに注意事項?」「イエス。トリックオアトリートと言って、お菓子を持っていない場合は悪戯されるらしい」「へぇ、」なんか物騒だなと思っていたらアルファが珍しく表情を表に出して言った(わかりにくいけど楽しそう)。妙に邪悪さを纏わせていて、嫌な予感。「……トリックオアトリート。悪戯させてくれ」ぶっ、とグミをリバースしかけてなんとか飲み込んだ。悪戯ってなんだろう?私の嫌がることで間違いはないのだろうけれどと思考を張り巡らせていたところ、アルファが私の体躯を抱きしめて胸に顔を押し付けた。「私たちは子供の悪戯では面白くないだろう。ところで、余談があるのだが聞きたいか?」



これはその、あれということだろうか。兎に角まだ、ハロウィンに関するお話が聞けそうなので引き出させて長引かせようと私は思って腕の中で頷いた。「ハロウィンとは元々仮装をするらしい」そう言ってパキンと指を鳴らすと私の衣装がプロトコルオメガのユニフォームから良くわからない黒いフリルのついた帽子とドレス姿に成っていた。なんだこれは、何の仮装なの?とアルファを見上げるとアルファが拍を入れずに答えた。「魔女だ、この日のために用意してみた。中々似合っている」「へー、よくわからないけど……可愛いねこれ」「イエス」自信ありげにそれだけ言って剥き晒しにされている首筋に口づけた。



「まあ、脱がしてしまうのだがな」「……」先ほどまで口内に存在していたグミも粉々になって胃に納まってしまいもう、手元にはお菓子は残されていなかった。ハロウィンってよくわからない文化だなぁ。



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