霧野 「私さ、蘭丸のこと好き」 「嘘だろ」 数秒もしないでそれは嘘だということを、蘭丸は看破した。蘭丸が何処か冷めた目をしていたのに身震いをした。どうして、一瞬で看破されたのかということは、私自身わかっていたので詰まらなさそうに「少しは騙される演技位してくれていいのに。折角のエイプリルフールなんだよ」なんて理不尽な要望を彼にぶつけた。結ばれた髪の毛が、ちょっとした動きに揺れた。私ではなく神童君を一瞥して、私に視線を戻した。 「だって名前は、神童の事が好きじゃないか。俺になんか興味もない癖に」 「興味が無いとまでは言い過ぎだけど、そうだね」 肯んじた、それは正しいことだ。私は、盲目的なまでに神童君が好きだ。少しだけメンタルが弱いところも、美しい旋律を奏でる指も、たまに見せてくれる優しい瞳も。彼のすべてが好きだ。大袈裟なようにすら聞こえるけれど。だからこそ、他の人への思いに興味が沸かない。恐らくは、振り向いてもらえないからこそ余計に私は執着してしまうのだろう。 「そういう残酷な嘘はどうかと思うんだ」 お前は、俺の気持ちを知っているじゃないか。俺が名前を好きだってこと。エイプリルフールだからって、残酷な嘘を悪びれもせずに言うなんてどうかしている。余計に諦められなくなってしまう。「私もね、たまに思うんだ。蘭丸が好きだったらよかったのになって」神童君が好きだけど、私は知っているから蘭丸の良さも。ただ、思いを捻じ曲げることが出来なくて神童君を諦めきれなくて、そこから一歩も進展しない。私は至愚な人間に過ぎない。 「そう。それは光栄だね。でも……誰も救われない、嘘だ」 俺も、お前も救われない。虚しさだけが支配する。だって、さ。神童君ってば、私に興味すらもないんだもの。私のような一般人じゃ、きっと神童君の心の片隅にすらおいてもらえない。たまに茜ちゃんのような、大胆な行動に出られればなぁ……とも思うのに、それすらもできない。それでも、至愛を捧げることをやめられないでいる。 「ああ、俺名前が、嫌いだよ」 「嘘でしょ」 「そうだね、どうしようもなく好きだ」 お互い、至愚だね。他人の空言に付き合えない程に。 前 戻る |