きっと、これが愛なのだと



(・夢主を急に異性として感じるようになり、いつの間にか嫉妬や独占をしてしまうアルファ)


初めて彼女の存在を確認したのはこのプロトコルオメガに新しく入ってきた時だった。私はとあるチームのリーダーを務めていたのだが、如何せん表情が乏しく、笑っているのだか怒っているのだか分からない顔で、名前に「よろしく頼む」と何とも、素っ気ない態度で言ったのだった。それでも、これから自分のリーダーに成る人物に当たる私に対して、名前は柔らかな笑顔を向けて手を差し出して「宜しくお願いします、リーダー」と言った。その手の意味が分からず怪訝そうな顔で見つめて固まっていれば「握手ですよ!あーくしゅ!」はい、握手です〜!と言って強引に触れた手が上下に揺さぶられた。それは古くからある儀式の一つで仲良くなりたい相手などに使う物だったと記憶していた。



そんな始まりからして、少し経ったある日。レイザと話して居るのを耳にした。「どうだ?此処の居心地は」「まぁまぁですねぇ〜。私はセカンドステージチルドレン孤児なので、有難いですよ」勝手に盗み聞きなど……と思い立ち去ろうとした瞬間名前と目が合った、弾かれた様に名前が「あ、リーダー」「……アルファ様?」二人の視線が突き刺さった。「ノー、盗み聞きではない。通りがかっただけだ」と告げるとそんなのわかっていますよぉ!と言った。それにしても社交的で明るい名前は直ぐに誰とでも打ち解け、仲良く成れた。名前の存在はまるで、太陽を想起させる。燦々と輝くそれに手を伸ばしても届かないように、私はその身を焦がすのだった。



今日も今日とて、サッカーの練習を行う。早く手を打たねば取り返しのつかない事に成る。今日はガンマの所と練習試合だった。この間はベータだったので、順番通りだ。名前に容赦なく襲い掛かる、相手のチーム。一人が、名前からボールをカットした瞬間名前が倒れた。「!!」それを見た瞬間、私は化身を出しアームドしていて、相手を吹っ飛ばしていた。ピピーッと笛の音が響いた。しまった。やりすぎたと思った時には遅かった。私は……。ガンマが名前をナンパしているのを見た。まだ試合途中というか休憩中だと言うのに。



「あんな根暗のアルファの所なんて面白くないだろう?」「そんなことないですよぉ〜」笑顔を振りまく名前。それは私へ向けられた笑顔と何ら変わりなくて、私だけの物にしてしまいたくて、ふつふつとわき上がってくる感情は負のオーラを纏っていた。「僕は強いし、名前の待遇だって今より良くしてやれるよ」そうあけすけに言い、ニィと口元が弧を描いた。いけない、冷静に成らねば。ガンマが名前の肩を抱いて至近距離で何かを話して居る……恐らくはまだ粘っているのだろう。私は気が付いたら二人を引き剥がしていた。「いい加減にしてくれないか」「それはどっちの台詞だい?」ガンマが男の嫉妬なんて見苦しいね。と言った。嫉妬?私が?……少し考えたけれどわからなかった。「せいぜい名前に嫌われないように気を付けるんだね」「軽々しく、……気安く名前の名前を呼ぶな」怖い怖い。とわざとらしく言ってガンマは「それじゃぁ、名前、例の件考えておいてね。僕はもう行くよ」



例の件?何の事だ。まさか引き抜きの件か?そう思うと胸に何か鋭い痛みが迸り、胸を押さえ付けた。「リーダー大丈夫ですか?」名前が心配げに、私の傍らで背中を撫でてくれた。優しい繊手が上下に擦ってくれる、それだけで先程までのどす黒い蟠りは解けていくようだった。だが、解せないのが私を今だ”リーダー”と呼ぶことだった。名前は月日を重ねてもリーダーと呼んで他のガンマやベータの事は様付で呼ぶ。私だけ、リーダーと名前ではなく、そう呼ぶ。それが酷く許せなかった。「リーダー?」「アルファ」「?」伝わらなかったのか、頭を傾けて、それから少しして理解したのか「アルファ様?」「そうだ」また少し近づいた。でもまだ遠い。二人が溶け合うくらい、近くなければ私は不安で仕方なく感じる。



気が付いたら、名前を独占するように、誰も近づけなくなっていた。男は勿論の事女も必要最低限の会話をさせなかった。代わりに話すのが苦手な私が、名前の代わりに話をして、事を進めていた。桎梏しているといっても過言ではなかった……。名前から、あの眩かった、笑顔が失われていると気が付いたのは、私がこうなってしまってからだろうか?それすらも思い出せない。遠い記憶の忘却の彼方へと葬り去られている。まるで精巧に出来た名前の人形みたいだ。名前と会話をしても以前の様な笑顔を向けて貰えない。私は何の為に此処までしたのか、もう、わからないでいた。「ああ、そうか。愛しているのか、」「アルファ様?」「名前、やっと答えが見つかった。名前、愛している。これからも私の傍に居てくれ」そういって口の端を持ち上げると、名前が絶望したようなこの世の終わりでも見たかのような顔で「そうでしたか」と呟いた。名前はそれきり、口を閉ざしてしまった。


きっと、これがあいなのだと。

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