背中の奥の骨にキスを



(・久遠監督に甘えられる、夢主は誰かの姉)

私には弟の虎丸にすらいえない事がある。というか、まだ、小学生の虎丸に言った所で理解を示してくれるかは謎だが。まぁ、兎にも角にも言えない事があるのは事実だ。そもそもの発端は忘れもしないであろう、久遠監督の「好きな男は居るのか?」という私の恋愛事情を探ってくるようなことから始まりだったりする。その時は好きな男の子が居なかったので素直に「居ないです」と答えたのだった。すると、誰にも見せなさそうな(冬花ちゃんには見せていそうだけど)柔らかな笑みを浮かべて顎鬚を撫で付けたのだった。私は意図がつかめずに疑問符を浮かべながらその日のマネージャーの仕事をこなしたのだった。翌日は何も無かったのでやはり白昼夢だったのかと思ったのだが、これから始まる日々にはその時の私には想像もつかなかっただろう。



久遠監督は甘えん坊だった。私が皆のドリンクを作っている時にそっと寄り添うように後ろから抱きしめてきて身長差のある、私をすっぽりと覆い被せてしまったのだった。「久遠監督、誰かに……虎丸に見られたら大変ですよ」「そうだな、でも今は練習中だから、誰も来ないだろう」「サボりですか?」「悪い大人だからな」そう言って余裕そうなのに何処か余裕の無さそうな表情を浮かべてそっと口付けた。大人がするには何処か幼いなって思ったけれど冬花ちゃんも実の娘じゃないし、奥さんは居ないみたいだから幼いと言う表現は若しかしたら強ち、間違いではないのかもしれなかった。



「んっ、」「……」頬からゆっくり顎にかけて、ゆっくりと指を滑らせる。顎をクイと持ち上げられて、不意に息が苦しくなるくらいのキスを施される。私はこんなキスを知らなかったので思わず久遠監督を拒絶するように胸を押した。だけど、そこは大人の力と子供の力。押し負けてしまって、そのまま監督を受け入れる形に成ってしまった。「ぷぁ……」「……苦しかったか?済まない」そう詫びてきたが、あまり心は籠っていない様に聞こえた。パタパタ誰かが駆けてくる音が聞こえた。誰だろう?って思って久遠監督から離れようとすると監督に腕を掴まれた。身動きが出来ずにいたら、同じマネージャーの秋ちゃんが入ってきた。「名前ちゃん、頼んでいたスポーツドリンクの準備は出来た?って、あれ……?顔赤いけど大丈夫?」



まずいと思ったが、久遠監督が機転を利かせてくれて「ああ、この部屋は空気が籠っているだろう。だからだろう」「ああ、そっか、此処熱いもんね……ごめんね!」「ううん!いいの!スポーツドリンクの準備は終わっているから」「ああ、こいつは暫く休ませておく。監督責任だから、付いておく。心配は無用だ。そう伝えておいてくれ」それだけ言うと秋ちゃんは「はい!」と言って準備しておいたスポーツドリンクを抱えて出て行った。「……行ったか、」「監督!ばれたらどうするんですか!」それにしても、私は久遠監督がわからない、好きと言われたわけでも無いのに、何で抱き着いて来たり、キスをするのだろうか?私は久遠監督もわからないけど自分もわからないで居た。見失っていた。何故なら、自分は監督を梳いているわけでも無いのにそれを受け入れているからだ。



取り敢えず本来やることを失ってしまったためベンチに座って、ぶらぶら足を揺らしていたら隣に腰かけたと思った久遠監督が横に成って私の膝に、頭を乗っけた。自然な動作で、吃驚してびくりと体を揺らしたが、久遠監督は気にする様子も無く、目を瞑って。「名前……済まないが、暫く膝を借りる」と言った。「もう借りているじゃないですか!」と怒れば、体力を消耗すると思ったので、少しだけ小声に成っていた。「そもそも、監督は何でこんなことをするんですか?」「言わなければ分からないのか?」と言われたので、口を噤んだ。普通に考えれば好意を向けられていると考えるのが普通かもしれないが、私は、まだ中学生で、久遠監督は大人だ。



「久遠監督が私を好き……とか?」「……まぁ、大声で言えたことではないが」目を瞑ったままだったので、頬に朱色を灯したのは見られていないだろうが、酷く熱く感じられた。「お前はどうなんだ?行為を受け入れてくれているようだが」そういえば、そうだった。「わからないんです。私、恋とかしたことないんで」そういうとほぉ、と興味深そうな声が聞こえた。「してみたくはないか?恋と言う奴を」「……!し、してみたいですけど。相手が居ないんですよ!好きに成れるような」「役不足か」何処かしゅんとうなだれたような声を出すので、そんなことはないです!と否定しておいた。



「宇都宮が、羨ましいな。名前の様な姉が居て」「そうでもないですよ。私虎丸が心配で、マネージャーに成った位ですけどウザがられていそうですし」「……愛している、」初めて言葉にされた愛の言葉は何処かぎこちなくて、初めて捧げられた愛に似ていた。だから、私は気が付いたら頷いていたのだった。きっと、私も同じ気持ちなのかもしれない。

Title 約30の嘘

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