煉獄蝶が舞う




(・張遼夢の煉獄シリーズのもしも夢主と張遼が幸せな未来を築くことができたなら(想いは通じあっている体で))


名前が馬をのろのろと走らせて農村にまで視察にきた。人々は寄ってきて「おぉ、殿さまだぁ、こんなところまでお疲れ様です」「わぁ〜!名前様だぁ!」「有難い」人々の声は様々だったがどれも温かい歓迎の物だった。「皆〜!呉とお友達に成ったからお魚持ってきたよ!新鮮なうちに食べてね?皆、お野菜とお肉だけじゃ飽きちゃうよね!」そう言って馬に積んでいた、大量の魚のはいった籠をおろし、皆に平等にわけた。道理で、馬がのろのろ走っていたわけだと納得する。「わぁ、こんな大きなお魚初めて見た!名前様ぁ!有難うございます!」「うんうん、今日は農作業もちゃちゃっとやっちゃおう〜!」「えぇ、殿様、そんなことまでしていただかなくても」「いいのいいの。だって、此処で取れるお野菜は私も食べるもの」そう言って腕まくりをして、収穫の手伝いに入った。



一方気が気でないのが張遼だった。いつも町や農家に行っては、民の事を思いやっている。それはよいのだが、自分の元を離れるときに一言も無いのだ。大方、そのような事は他の者にさせればよいのです。と言って引き留められるからだろう。だが、名前は嫌だった。自分の目で確かめて、自分の足で地を歩き、耕し、刈り取りたかった。天下統一を夢には見ているものの、何処か地に足がつかない。曰く「天下統一は私じゃなくてもいいの!皆がー幸せーっ!って成る人がお殿様なら幸せでしょう?」との事。張遼は馬を走らせていた。嘶く馬の腹を蹴り、全速力で飛ばしていた。どうせ、農村だろうと目星はついていた。貧しい村人に食料を分け与えるのは彼女はよくやることだったからだ。



とある農村にて馬をいなした。「やはり、此処に!名前様!いつ何時危険があるかわからないのに、一人で行動など、関心致しませぬぞ!」「わー、張遼だ!どうしてわかるの?」「前日に魚を入れる籠を大量に探していましたからな」成る程ぉ、と感心したように言うと張遼がはぁ、と溜息を吐いた。何だかんだで許してしまうのだ。名前の行動、言動全て純粋で無垢であるからして、責められないのだ。「だって、私たちのご飯は皆が作ってくれているんだよ?張遼もやろう?」「はっ、この張文遠。いざ」と慣れていないぎこちない手つきで収穫をしていると子供が泣いた。「うわあああん」「あっ、張遼は怖くないよ?私の……えーと、配下だからっ」「ぐすっぐすっ、本当?」「うん。ほら、張遼笑って?」「そんな無茶な……」とはいえ、名前の命令。従うまでだった。ニィと口角を持ち上げて自前の帽子を子供に被せた。「貴殿も今日から武人だ」「わぁ、張遼様の帽子〜」泣く子がもう笑っている。



農作業を終えた後、魚を入れていた籠には大量の野菜が詰められていた。これも名前の人望のなせる技であった。「可笑しいなー、手伝いに来たのにね〜」「それよりも、今晩は久方ぶりに酒を飲まれるのでしたな」思い出したように言うと名前が「まぁ、ちょこっとね。張遼も、飲もう?この間、村の人にお酒配ったら好評だったからそれ、飲もう」えへへ、と笑って馬をとぼとぼと歩かせる。城に付くころには、すっかり夜の帳が降りていて真っ暗な中宝玉の如く輝く星屑たちが主張していた。中でも大きな丸い月は今日は満月のようで、欠けている部分が見当たらなかった。月見酒にはもってこいの日であった。



張遼に酌をする、名前「張遼が居ると子供が泣いちゃうから」「それは酷いですな」「事実だもん。強くて、頼りになる、私のだーいすきな人!えへへ!」まだお酒も入っていないのに、純粋に想いをぶつけてくる名前が酷く愛おしくて、手を取り、手の甲に口付けを落とした。「この張文遠、何とお答えしたらいいかわかりませぬ。私は一介の、武将にすぎませぬ。なのに、そのような勿体ないお言葉、」瞬間、名前の瞳が潤んだ。「張遼は迷惑だった?」「そのような事は決して!わ、私もお慕いしております……名前様だけを永劫に」「本当に?嬉しい!張遼大好き!」そう言ってお酒を煽った。そしてそのまま肩にコテンと体を預けた。



「張遼は逞しいなぁ」「武人ですからな」「えへへ、そっかぁ。ね、婚儀はいつする?」「春がよいかと。今すぐにと言うのならば今すぐにでも」そういうと本当に嬉しそうに破顔して見せた。張遼は確かに名前を愛していた。そこに歪が生じる程に愛していた。されどその中には曲げようも無い忠誠心も含まれていた。両方が、両立しているのだ。「張遼?命令に従うとかなら駄目だからね」「いいえ、命令などで婚儀を結ぶなど断じて」「だって、張遼は私の願いは何でも叶えてくれるから。だから不安なの。ねえ、今此処で口付けてよ」そして、この不安を拭い去ってよ。そう縋れば張遼は口髭を撫で付けてそっと、顎に手をやった。そして、そのまま吸い込まれるように名前の唇に口付けを落とした。「信じてくださりますな?」「!……う、うん」互いに酒にはまだ酔っていなかったが、何処か酩酊しているかのような心地だった。お月様が丸く優しく二人を包み、照らしていた。

あとがき
煉獄を好きと言ってくれて有難うございます。楽しかったです。


戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -