この声は嘘をつくためにある




(・鍾会でメリーバッドエンド)


毒婦と呼ばれた女がいた。それはたいそう美しいが、毒があるとして忌避されていた。名前は名前と呼ばれていたが、今と成っては歴史に残っているだけで、本当にそう呼ばれていたかも定かではない。さて、名前が何故毒婦と呼ばれていたか、ここいらで説明しようと思う。名前には旦那が居た。どれも屈強な、されど名誉や富を持った男だった。戦場に出ては名前と仲睦まじく暮らしていたらしい。されど、それも一か月もたたないうちに終わりと告げた。それは、突然の旦那の死の知らせでだった。名前はたいそう嘆き悲しんだ。元々男は戦場に出向く為、然程珍しい物ではなかった。悲劇の女として、暫く話題に成った。それから、旦那にとせがむ男が取り巻いたが、名前はそれを全て突っぱねていた。



だが、一年と経ったある日、夢に亡き夫が現れ幸せに成れと言われたがためについに婚姻をすることに決めた。二番目の男は名前が戦を恐れ、城勤めしている男を選んだ。周りは酷く男を羨んだ。暫くは幸せが続いた。だが、ある日「うっ、」とご飯の最中に毒でも食ったかのように、息苦しそうにはぁはぁ息を吐きながらやがて、ごぷりと血を吐きその場で絶命してしまった。こうなっては、名前が毒婦であると噂を立てられても不思議ではなかった。今までの二人の男も名前の毒に当てられて死んでしまい、その財産を名前は独り占めにしているのだ、と男は近寄らなくなった。二度目の死が特に顕著だった。毒を盛ったと専らの噂に成ったのだった。



だが、そんな名前に一人だけ近づいてくる男が居た。一度目も二度目も突っぱねた男だった。名を鍾会と言う、英才の誉れ高き、才のある男であったが野心家だった。名前は不思議に思い「どうして、私に近づくのですか。私の毒に当てられて死んでしまいますよ」と名前は言った。鍾会はハッと鼻で笑って見せて「ならば、その毒とやらに当てられず死ななければ、私と」と言った。名前は迷った。自分の毒に当てられ死んでしまったらこの若く美しい男は恨むだろうか。いよいよ、怖くなってきた名前は鍾会の言葉を突っぱねた。「私は毒です。夫を二度も殺してしまった毒婦です、夫の財産など、目当てでは無かったというのに」そうさめざめと涙した。鍾会は欠ける言葉を探したがついに見つからなかった。



それからも鍾会という男は近づき毎日土産と称して、贈り物を送った。「私が選んだものなだ、お前には勿体ないくらいだけど、まぁ、似合わなくもない」そう言って、ニィと口の端を持ち上げて言ってのけた。名前は受け取れません、受け取ってしまえば貴方も死んでしまうかもしれないと言ったけれど、鍾会は無理やりに渡した。それからも何度も逢瀬を重ねて、遂にその時が訪れた。「名前、私と婚儀を結んでほしい。これだけお前の傍に居て、何も起こらなかったんだ。何も起こるまい」鍾会の言葉は魔法の様で名前を納得させるだけの力を持ち合わせていた。名前は化粧が崩れるのも、厭わずにぽろぽろ涙を零して「はい、鍾会様」とだけ言って頷いた。



それから、鍾会と名前は桃の花の散る季節に婚儀を結んだ。一か月、二か月、いや、もっとだ。一年、五年経てど鍾会は死ぬことは無かった。周りから毒婦と呼ばれていた名前もただの事故、偶然とまで言われるようになった。鍾会はほくそ笑んでいた。そう、今までの二度の夫の死は鍾会が絡んでいた。年若く、されど怜悧な鍾会は一度目の男の時、わざと敵の多い場所に誘導してどさくさに紛れて切り殺した。その場所は乱戦状態だったため味方を切ったのすらわからなかった。鍾会は内心これで、名前は手に入るだろうと思ったが名前は鍾会を選ばなかった。その上、次の男との婚儀も二年要した。鍾会は僅かながらでも戦場に立っていた為であろう。



二度目の男は毒を毎日そっと忍ばせて殺した。丁度、名前の自宅で死んだのは、幸いだった。毒婦の名は余計に広まったからだ。これで、名前に近づく男は居なくなったのだから、敵は居なかった、稀にそんなの迷信だと近づく男も居たが、鍾会が牽制して近づかせなかった。そして、漸く名前との一対一の接触にこぎつけたのだった。名前は最初、鍾会を警戒し、殺してしまうのではと怯えていたが鍾会は自分が殺してきた男なのだから、そんな心配はないと確信していた。名前は最初は心を開かなかったが、何度も訪ね贈り物を贈ってくる、鍾会に少なからず好感を持ち始めていた。



そして、鍾会の行為は暴かれることなく婚儀まで進み今では結婚五年目の夫婦だった。「鍾会様、私、今幸せです。本当に有難うございます、鍾会様は私のお天道様でございます」「な、何を急に……!」鍾会は照れながらもこの事は一生墓場に持っていくつもりで名前を慈しんだ。


Title エナメル


あとがき
ツイッターでお世話に成っています。色々考えたのですが似たり寄ったりの話に成ってしまいました、申し訳ありません。


戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -