黄金狐の恋模様




(・諸葛誕で、例えば僕が、の続き)


彼女は私の事を「諸葛誕」と呼ぶ。聞いたことも無い名前なのに何処か懐かしくて泣きそうに成ってしまう。彼女……名前は人では無かった狐の妖だった。黄金色の髪の毛は神々しく、赤い瞳は血を吸ったかのように美しい宝石の様だった。私が髪の毛を結っていた時に「諸葛誕、君はこっちの方が似合う」そう言って、前髪も全て後ろにやって、固めた。「うん、昔の君にそっくりだ。やはり、探したかいがあった」「しょ、諸葛誕という男はこういう髪型をしていたのか?額が出ているじゃないか」そういうとははっと朗らかに笑って見せて「そうだな。額に悪戯をするのが私の楽しみだったよ」そう言ってピシッと指を弾いて額に攻撃をした。「いだっ!」「例えばこうしてな、真面目な君はいつも不真面目な私を叱ったな。この様な幼稚な事を今すぐやめるべきだ、とね」



諸葛誕という男はどうやら、真面目だったらしく他者からも好かれる人物だったようだ。狐の化け物と言われた名前は人間から攻撃受けていて人間を嫌っていたらしいが諸葛誕と言う人物だけは名前を攻撃せず、嫌いもせず、好意を向けてきた初めての人物だったらしい。そう、昔を思い出すように、笑って言った。今の私の名を告げても諸葛誕としか呼んでくれないのが不服だった。が、次第に慣れていった。なにせ、彼女曰く、私は諸葛誕の生まれ変わりで、私の愛した男は諸葛誕ただ一人なのだから。と言った。私を見ていて何処か遠くを見据えているような気すらした。私は、諸葛誕で、あって諸葛誕ではないのだから。



生まれ変わったとどうしてわかった?と尋ねた時「匂いだ」と答えた。何の匂いだろうか?体臭?と疑問符を浮かべていたら、名前がニィと口角を持ち上げて弧を描いた。「魂の匂いさ。魂はどんなに輪廻を繰り返しても輝きや、匂い等は変わらない。質が変わらないのさ。その人物がどんな道を歩んできたかとかも魂の質で分かる。だから、君と初めて逢った時、君は少し違うと思ったものさ」そう言って昔を懐かしむように目を細めた。魂と言う奴は不思議な物なのだなというとそうだな。と答えた。「私は長生きだが、何処まで生きられるかわからない。人間の姿形は変わりようはないが、妖狐の時の姿を見せた時に気付くだろう」「見せてくれないのか?」「構わないが」



そういって、周りが白い霧に包まれたと思ったら大きな狐がゆらゆらと九本の尾を揺らして見下ろしていた。確かに黄金色の毛は何処かくすんで見えた。髪の毛の黄金とは違って見えた。「どうした?怖いか?」名前がまさかと言わんばかりに声を上げたが違うと否定していった。「髪の毛の色と違って少しくすんで見える」というとああ、と声をあげて、寂しさを包含させて「そうだな、君を待つ時間は長すぎた。何十年、百年、……人間の転生と言うのは遅くてな、私も少し待ちくたびれた。だから、くすんでみえるのだろう。私が死ぬとき、君は看取ってくれるか?」狐の目が私を見つめる。轟々という、風の音が煩い。看取る?そんなのは嫌だ……。折角、私の転生を待っていて探し回ったと思われるのに。



「君を探し回ったのだ、それくらいは許してくれないか?若しかしたら君と今度は夫婦として生きて死ねるかもしれないな」そう言って笑った。前世でもそうだったのかと聞くと「約束をしたのだ。君を何度でも愛すると、探し回ると。何度でも恋をすると」そう聞いたとき、私は酷く愛されているのだと錯覚したのだった。今も愛おしげに尾を揺らしながら私を見つめている。魔法にかかったかのように、狐を抱きしめていた。そして、何故か泣いていた。「ああ、」逢いたかった。何も思い出せない癖に、気が付いたらそんなことを口走っていた。名前は私もだ。ずっと、逢いたかったと人間の姿に戻って強くきつく抱きしめた。



私は、名前と夫婦に成った。「二度目の夫婦生活か、悪くないな」と呟いていたから、きっと諸葛誕の時も夫婦だったのだろう。口付けを交わす、瞬間映像が、頭の中で走馬灯のように駆け巡った。黄金の狐、怪我をしている。怖くないと言う髪の毛を後ろにやっている男。黄金の狐が目を細め気に入ったと、次の瞬間には男は老いていて、狐が涙を流しながら何かを誓っていた。……これは前世の記憶か?ならば、「おもい……だした」「諸葛誕?」「私をずっと探していてくれたのだな、名前……」「諸葛誕!」鮮明に、鮮烈に。記憶は悲しい物だったが、黄金の狐がくすんだ色に成るほどに時間が経過していたとしても、私も愛していたことには変わりがないのだ。



黄金の狐が言う。「何度でも愛し合おう、私が死んでも、君が死んでも。私は魂を巡り、魂の匂いと輝きに導かれ何度でも恋に落ちる」君を愛しているよ、諸葛誕。そう言ってまた口付けた。


あとがき
まさか、これの続編と言われると思っていませんでした。有難うございます。


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