やきもちやけた




(・夢主に無自覚嫉妬、ミストレ)


名前という女は本当食えない女だった。何せ、男の軍人であるミストレよりもサッカーがうまく、軍人としてもすぐれていた。その点ミストレが劣っているわけではないのだが、名前を超えられることが出来なくて、いつも苦虫を噛みつぶしたような顔で睥睨していた。今日のサッカーの練習の最中もそうだった。流石に女であるせいか、バダップなんかには勝てないようだが、いい勝負をしていた。今日も、肩に白いタオルをかけて、汗を拭っていた。バダップは「中々上達したんじゃないか」「まぁ、バダップには勝てないけどね」バダップと仲睦まじくはなしている姿すらも、ミストレにとっては不愉快な物だった。己のリーダーを取られたせいか?と思ったが何か違うなと感じていた。



「あー、ミストレ。ミストレもうまく成っていたじゃん。もうちょいで負けちゃいそうかも?」なんて柄にもなく弱気な言葉を吐いている、名前に苛立ちながら「あー、そう。それよりバダップと仲良くしていればいいじゃないか」「?バダップとはもう仲が良いけれども?」と疑問符を浮かべていた。男女の中でっていう意味だと言葉には出さなかったが、何故自分が此処まで苛ついているのかわからなかった。ただ、ミストレの言葉によって、名前はバダップの元へと行ってしまった。バダップと話し込む名前。「ミストレもうまくなってきているよね、私にはまだ勝てないけど」勝てないけどの所に苛立ちながら男としてのプライドが傷つけられている気がした。



「ああ、だが、女のお前に負けているようでは、な」そう言ってバダップがミストレを流し見た。ミストレは悔しくなってその場に居ても立っても居られなくなった。気が付いたら、自室に寝転んでいる自分が居た。「くそ、」呟いたけれど誰にも届かない声。名前よりも弱い自分、バダップと仲が良い名前。どれも不愉快な映像だった。コツコツ、ドアを叩く音がして今はそんな気分じゃないのになとモニター越しに誰かと窺えば名前が何かを抱えて、突っ立っていた。ピッとモニターの画面を消して居留守でも使おうかと思ったが名前にはお見通しらしかった。



「ミストレー、居るんでしょう?!開けてよ!」「あー、もう!」ミストレが乱暴にドアのロックナンバーを入れて、通す。「今日不機嫌そうだったから。ていうか、私と居る時はいつも不機嫌そうだけれどね。これ、スポーツドリンクとゼリーね。流石に手ぶらじゃ悪いと思って」そう言った。「それより、男の部屋に一人で来る方が信じられないね」そう言って威圧した。「だって、ミストレ女の子みたいに綺麗で可愛いんだもの。大丈夫だよ。信用しているし」そう言った。それが無性に悔しくて遂に押し倒してしまった。冷たい床の上に、名前の体が強かに打ち付けられた。



「いたっ、ミストレ……?」「ムカつく。名前が強い所も、バダップと仲が良い所も!」遂に、自分の中の感情が爆発した。もう抑えきれなかった。名前が吃驚したように目を丸くしていた。気に食わないのだ、何もかもが。若しかしたら存在そのものすらも気に食わないのかもしれない。「私が強いのが嫌なの?バダップと仲良くしているのが気に食わないの?」そう問われるとそれだけか?次第に涙を浮かべた名前が「私が嫌いなの?ミストレ、」とツーと涙の筋を残して零した。ミストレは何故かそれに酷く心が痛んだ。何故かわからなかった。理由は?理由を述べられなかった。



「わ、悪い。名前の事は嫌いじゃない、」「本当?」嬉しそうに声が弾んだ。今の状況から変わってミストレが名前の上から退いた。それから、「ああ」とだけ答えた。名前を怖がらせる気も、泣かせる気も無かった。なのに感情が押さえつけられなくて、気が付いたらああなっていた。「じゃぁ、さ。私の事好き……?」名前が恥らうように頬を薄桃色に染めて、その唇から言葉を吐き出した。「?!」そんな事考えたことも無かったミストレは固まってしまった。いや、本当は考えていたのかもしれない。



何故ならば、ミストレは気づいてしまったのだ。名前に想いを告げられて苛立っていた理由を。バダップと仲が良いのに不愉快だったのは男に色目を使っていると思ったから、自分より強い事に苛立っていたのは、自分が名前を守れない男だから。「……好きだ」気が付いたら勝手に言葉を紡ぎ出していた。名前が嬉しそうに抱き着いて来たのを受け止める。自分の気持ちと向き合えたミストレは何処か清々しかった。そうか、今までの態度は全て無自覚の嫉妬だったのだ、と。

Title 彗星

あとがき
初めて書いたので難しかったです。口調とか迷子です。


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