夢の終わりに君とキスを




(・貂蝉←呂布←夢主←張遼 の関係で誰も幸せになれない暗い雰囲気の話)


私と言う存在が無ければ、若しかしたら誰かは救われたのかもしれない、そう思う時があります。でも、私の役目は……そう思うと、決してその役目を放棄して何処かへ逃げ出すわけにもいかず、奉先様や、董卓に取り入らなければいけない。奉先様の瞳が何を映しているのか私は知っています。そして、名前様や張遼様、誰が誰を見ているのかすらも、全て知っています。奉先様と甘ったるく媚びた声で呼べば奉先様は喜んで私の傍に来てくださります。それを物陰からそっと見ている名前様には本当に申し訳なく思ってしまいます。私と言う存在が、名前様を苦しめている、その事実だけが此処に存在するのです。でも、この計画さえ終われば私はこの地を離れ、何処か遠くの地へ行くので安心してください。ああ、でも奉先様を利用しなければいけない。その事に憤るでしょうか……。私は、毒に成るのです。



女にそこまで執着したことは無かった。白い肌に映える桃色の唇が「奉先様」と呼ぶたびに心臓が妙に煩く鳴る。貂蝉は綺麗な女だった。その舞には魅せられる物がある。だが、あの豚にも話しかけるのが気に食わない。俺は最強の武を持つ男だというのに、あいつに取り入って何に成るというのだ。そして、俺の配下である名前は煩い。貂蝉殿は何か考えていらっしゃりますよ。呂布様お気を付けくだされ。って言うけれど、何を。はっ、馬鹿馬鹿しい。貂蝉が何を考えていようが関係ない。俺の物にするまでだ。そういうと悲しそうな顔をして、そうですか。と消え入りそうな声で、俺の事を見上げた。名前という女は別に醜いわけではない。ただ、貂蝉とは真逆の女だ。何せ、奴は俺に付き従って、戦場に出る。女だというのに、武器を携えて怪我をしながらも俺の周りを目障りなくらいに、警戒している。凛とした表情と雰囲気、呂布様の為ならば命も捧げられます。と惜しげもなく言う。ならば、俺の恋路を邪魔するな。



貂蝉殿は何かを考えていらっしゃるように思える。時々、表情の無くなる瞳は誰も映しておらず、何処か不気味な印象すら与えられる。私は何となく嫌な予感がして、それを呂布様にお伝えしたのだが……どうにも私の嫉妬も交えたものだったせいか、呂布様は私のいう事を信じてはくれなかった。呂布様に万が一の事があったらこの命を捧げる覚悟ではいるが、ああ、また媚びた声で呂布様を奉先様と呼ぶ声がする、私は耳を塞いでその場から逃げ出したくなる。私が呼べない、字で貂蝉殿は呼ぶ。なんて、ずるいのだろう。女の私から見ても美しい容姿は、神様から愛されたように整っている。その美しい白皙には一切傷はついていないが、私は……。戦でついた傷等があって、決して綺麗とは言えないだろう。張遼殿が呼んでいる。きっと、また、私をお茶にでも誘ってくれるのだろう。張遼殿は優しい方だ。私が落ち込んでいる時は必ず甘味と共に少しお茶にしませぬか?等と私を誘ってくれる。張遼殿は物好きな方だとも思う。私等と居ても、楽しい事等無いのに嬉しそうに細い目を細めて私を見つめる。私は張遼殿を利用している部分がある。自分でも嫌な女だなと思うのだが、この忌々しい光景を忘れる為に張遼殿と共に過ごす機会が増える。ああ、私も呂布様に名前を呼ばれたい。……名前と、呼んでください……呂布様、こっちを、見て……。



名前殿をお茶に誘う時は必ず、大好きな甘味と上等な茶を用意する。甘味を食べている時だけあのお方の心から、呂布殿を追い出せるのだ。呂布殿の心の中には残念(僥倖)ながら、名前殿は存在しない。なのに、名前殿の口から出てくるのは呂布殿の話題ばかりだ。気が狂いそうになる。目の前にいるのは誰ですか?呂布殿じゃない、私だ。なのに、その瞳には私なんか居ない、きっと心の中にも居ないのだ。でも、私が異性として、女性として愛していると言えばきっと名前殿は逃げてしまう。何故ならば、私は都合の良い存在だからだ。呂布殿が貂蝉殿と一緒に居る時に、逃げ道として私と言う存在が漸く生きるのだ。私は呂布殿に勝てる武を持っていない、だが、名前殿を守るだけの、武は持ち合わせているつもりだ。何が足りないのだろう、矢張り武か?……そう思うと余計に稽古に身が入る。



「呂布様は私の警告を聞いてくださらない……私がもっと強く成れば、呂布様は私を見てくれますかね、張遼殿」「さあ……どうでしょうな」貂蝉と呂布が二人きりに成ったのを見計らったかのように誘われたお茶に、名前は溜息を吐きながら茶を啜った。張遼の要領を得ない回答に、悲しく成りながら何が足りないのか考える。「やはり、戦場に出る様な女はお嫌いなのですかね。雑魚には興味がないとおっしゃっていますけど、それは別なのでしょうか。何故、私を見てくださらないのでしょうか、」そういって苦しげに、表情を歪めた。名前は張遼の本当の気持ちには気が付いていない、何故、自分の好みの甘味が出て来るのか、何故、一緒に居ようとするのか。張遼が不意に言葉を漏らした。それは、崩壊の合図であった。「ならば、何故、名前殿は私を見てくださらないのか。名前殿は何もわかっていらっしゃらない、」恋い焦がれた男の瞳が名前を射抜いた。名前がその場に固まった。ああ、全てが繋がった(壊れた)。

Title 箱庭


あとがき

皆の視点だけで終わる予定だったんですが、短すぎたので。最後に張遼さんの若干の狂気で終わらせてみました。楽しんでいただければ嬉しいです。


戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -