星の届かないところでは




(・加州清光でシチュエーションは主とのすれ違いで病んでいく清光)



俺を最初に選んでくれた。その目に射抜かれた時、きっと、人間で言う恋って奴に落ちていたんだと思うんだ〜。だけど、愛される為には沢山沢山、お洒落して、着飾って、それから可愛くなくちゃいけない。だから、俺は可愛く成るために沢山努力したんだよ?ね?俺って可愛いでしょう?ま、初期刀に選んでくれるくらいだからきっと、名前も俺の事可愛い、って思ってくれたんだろうな、そうだろうな。本丸はひんやり冷えていた。まだ、だーあれも居ない。だから。独占できた。二人きりだね、って笑えば俺が寂しいと勘違いしたらしい。「すぐに沢山、仲間が出来るよ」って笑った。いつまでも、俺だけを見ていてほしいのになぁ……。



名前の言うとおりだった。数日後には三振り、具現化した。疲れた顔の名前が俺を見て笑った。仲間が増えたよって。全然嬉しくないけど、合わせて笑った。だって、名前は審神者。刀剣男士を具現化して、歴史修正主義者と戦って行かなきゃいけないんだから、駒は多い方が良い。だから、これは仕方のない事で。名前の初期刀は俺なんだから、他の刀剣男士なんかよりもきっともっと沢山ずっと愛して、可愛がってくれるんだから。だから、悔しくなんかない、寂しくなんかない。フゥ、と指先に息を吹きかけて乾かす。爪先が赤く染まっていた。前は……名前に塗ってもらっていたんだけど、最近は忙しいみたい。



この本丸も大きくなった。沢山の刀剣男士が来たけど、俺は初期刀で名前の近侍で隊長を任されているのは変わらなかった。削られた時間の代わりにそういう変わらないもので自分の心の隙間を埋めていた。だけど「ねぇ加州」「なぁに?」媚びたような甘えたな声を作り出した。それから暫く間が空いた。「今まで加州にずっと隊長と近侍を任せていたでしょう。辛かったよね?ごめんね。これから、隊長と近侍は……」ガタン、この間一緒に買いにいったマニキュアの瓶が重たい音を立てた。誰が近侍に成ったのか。とか、そんなこと忘れたというか、聞いてはいたんだけど、頭が、処理が、追いつかなくて。多分わかりたくなかったんだと思う。情けない顔をしていたかもしれない、なんて返事をしたのかそれすらもわからないんだから。重症。



愛を感じるのは手入れして貰える時、愛でて貰える時、可愛いって傍に置いてもらえる時のどれか。まだ、名前は俺を可愛いって言ってくれる。……あいつが来るまでは俺が一番可愛かったのに……ギリリ。歯ぎしりをする。乱藤四郎……まるで女の子みたいな恰好をした、刀剣男士。俺は男の子だから、そんなスカートなんてものは履かない。だけど、すっかりとのぼせ上ったかのように名前はあいつが気に入ってしまったらしい。俺は聞いてしまったんだ。俺だけに送られていたあの言葉を「乱ちゃんは、本当に“可愛い”ね」って。白昼夢の様にふよふよした現実味のない世界についさっき産み落とされたみたい!乱藤四郎も満更でもないと言った様子で嬉しそうに二人で笑っている、世界がどんどん壊れていく、罅割れていくそこからサラサラ砂が零れ落ちて行っている。



もう何もかもがわからない。俺に残された価値とは?何なのか、辛いとか、悲しいとか、苦しいとか、嫌な事しか無くて、頭が可笑しくなりそう。いや、もう可笑しいのかな?だって、隣で泣きそうな顔で俺を見下ろしている名前が久々な気がして嬉しかったんだからさ。もう、手段は選ばない。持っている手札から一番の切り札を。そう、俺は俺が傷つくことによって愛されていることを確認するように成った。「ねぇ、俺って可愛い?」「うん、……うん、」手入れ部屋に行って、覚束ない足で汚い自分を笑った。手入れ部屋に連れて行ってもらえる時に一番愛を感じる。まだ、必要としてくれているって。ねぇ。そうだよね?俺、アイツより可愛いよね?



自ら進んで、攻撃に当たりに行った。誰かを庇った。全部全部ぜーんぶ、わざとだよ。汚くて醜い俺に成っちゃっても、手入れ部屋に連れて行ってもらえる時、泣きそうな時、ああ、痛々しい程に。愛を感じるんだ……。その時だけ、加州、加州、どうして。って泣きそうな顔をして、ただでさえ白皙なのに、青白く成って。だから、きっと何度でも繰り返すよ。俺が一番だって、言ってくれても多分俺は今までの名前から信じられない。俺の事可愛いって言ってくれてもアイツがいるから、多分心の底からは信じられない。どうやったらさ、一番に成れるのかなぁ……一時的な一番じゃ、足りない……足りない。でも、こうしていなきゃ見て貰えないんだよね?こうするのが正しいんだよね?ねぇ、俺、可愛い?

何かが狂っているらしい、俺には直せない。きっと誰にも直せない。


Title エナメル

あとがき
書いたことなかったので多分偽物だと思います…。勿論覚えております。お久しぶりでございます。てりたま様もどうぞご自愛くださいね。こうして、サイトを通じて未だに覚えていてくださること幸福に思います。


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