あまくてやわらかくてすぐにさよなら




(・年上看護師さん(夢主)と太陽くんで甘)


昼間、僕と名前さんとの間にある秘密のお陰で僕は「雨宮君、調子はどう?」なんて、雨宮君って呼ばれる。「ああ、うん。まあまあです」って僕は患者の顔で受け答えをする。立派な看護師さんの顔をした名前さんが僕を気遣う風に良かったと笑みを浮かべる。でも、それはすぐに他の人にも向けられる。「ああ、鈴木さん……大丈夫ですか」患者を安心させる独特の笑顔を張り付けて、僕の元から去っていく。仕方のない事だ、と僕は半分嫌な気持ちを携えながら夜を待つべくして、ベッドに横に成る。相変わらず詰まらない番組がニュースが蔓延していて、僕はそれも嫌に成ってテレビの電源を落とした。夜、それは僕が一番楽しみにしている時間だった。夜と言っても、深夜だ。長い長い一日が始まった。



深夜、もう消灯の時間はとうに過ぎている。コツコツ、気配を成る丈殺した名前さんが近づいてくる。待ち合わせはいつも、この誰も居ない休憩室だった。勿論電気は最小限で暗い。それでも、僕はこの深夜の空気とこの特別な時間が好きだった。扉を開けて入ってきた名前さんが、昼間とは違う表情をしていた。「こんばんは、太陽君」この時、僕は雨宮っていう患者ではなく、太陽っていう一人の男の子に成る。そして「こんばんは、名前さん」名前さんも、看護師としての名字さんではなくなる。僕だけの、愛しい名前さんっていうただ一人の女性に成る。僕たちは互いの立場や年れを超えた恋人同士だった。最初はとても険しい道のりだった。そもそも、年齢が大きく離れた僕をそういう目では見られないと言われたのを今でもはっきりと覚えているのだから。でも、今はそんなこと関係ない。慈しむように頬を撫ぜて笑った。「お疲れ様名前さん」



そういって、昼間の内に買っておいたココアを差し入れた。名前さんは最近夜勤も多くて疲れ気味だ。どうやったら癒してあげられるのかわからないが、取り敢えず甘い物はいいとよく聞くので、僕は甘い飲み物を差し入れるようになった。眉尻を下げた名前さんが、申し訳なさそうに受け取りストローを差し込んだ。次第に甘い液体が体に回って、頬をゆるゆると緩めた。幸せそうな顔に僕も嬉しくなってしまう。「有難う、太陽君。美味しい」「良かった」僕も笑むと彼女の掌が僕の頬を撫ぜた。「そろそろだね」そろそろ。その意味を分かって僕は睫毛を震わせ、そのまま視線をタイル張りの床に落とした。



「うん」そろそろなのだ。……退院。退院すれば僕たちの関係はまた、少し違った物に成るだろう。当然逢える頻度は減るだろうし、こういった僕達だけの特別な時間と言うのは無くなる。今までずっと外の世界にあこがれ続けた僕にとっては、複雑な気持ちだった。「良かったね」「有難う」名前さんは僕の気持ちを知っていてそういう。「私は嬉しいよ?こうしてこそこそ隠れて逢わなくていいし、それに太陽君っていつでも呼べる」「名字さんじゃなくて、名前さんって、僕も呼べる」他人から見たら僕たちの姿はどう映るのだろう?姉弟?恋人?どうだっていい、ただ、今の関係が変わるのは違いない。



僕と二人きりの空間、段々と言葉数が少なく成っていってそれとなくいい雰囲気に成る。そっと頬を手の甲で撫ぜると気持ちよさそうに、されどくすぐったそうに微笑んだ。名前さんと僕は恋人だけれどまだ、キスも何もしたことがない「ねえ。名前さん、キス、してもいいかな?」「でも」誰かが通るかもとか、そういうことをもごもごと言いながら頬を恥ずかしそうに赤らめた。「大丈夫だよ」ゆっくり顔を近づければ、名前さんも諦めた様にゆっくり瞼を閉じた。二人の息遣いが聞こえる。僕も緊張しながらそっと唇に唇をそっと重ねた。名前さんを求める様に。愛しさが止まらなくて、何度もキスをした。



甘い。ココアの味がした。名前さんが飲んでいたから当然と言えば当然なのだが、緩慢な動きで、顔を離せば顔を紅潮させて目を潤ませた名前さんと瞳があった。「……太陽君、」「離れても思っているから。朝も昼も夜も。逢えない日を指折り数えて、名前さんと、また、こうやってキス出来る日を。だから、今は沢山甘えさせて?それから、名前さんの事補給させて」だって、暫く補給も出来そうにないんだからさ。僕はいつだって、触れていたい、思っていたい。「好き、何度言ってもきっと、足りない。僕は名前さんが好き。名前さんは?」意地悪を言ったつもりは無かった。ただ、僕は不安という宿痾を抱えている。全く面倒なのだがたまに言葉にしてもらわなければ安堵を得られない。名前さんが恥らうように言葉をつまらせていた。だが、意を決したのか小さな声で、「私も太陽君が好き」って言ってくれた。僕の宿痾を喰らうは君か。


Title エナメル

あとがき
太陽君、多分片手で数えられるほどしか書いたことないのですが、これで大丈夫ですかね…。


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